「今日のひとしな」番外編！‟大岡山クリエイターストリート” vol.3

本日は、二代に渡ってテーラーの仕事をされている、「TAILOR LINE（テーラーライン）」の澁川慶成さんにお話を伺いました。

 

大岡山の通りでは、どんなに遠くても澁川さんが歩いているのがわかります。スーツがビシッと決まって、颯爽とした姿がとてもかっこいいから。ご近所のスーツ姿が印象的で気になる方も、今回お話を伺ってみると、実は「TAILOR LINE」で作られているということが判明しました。

 

艶感がありながら、柔らかさを感じるような生地。私はスーツのことはよくわかりませんが、体のラインに沿って馴染み、美しいラインからは着る人の知的な雰囲気と強さが伝わって来るような気がします。

 

テーラーという仕事。このお仕事の醍醐味とはなんなのでしょうか。

「スーツをどんな状況で着るのか。何のために、誰と会うために、と出来る限り丁寧にお話を伺うようにしています。スーツを仕立てるという行為の中で求められているもの以上のものを作りたいので」

 

その言葉が、会話の中で何度も出てきます。なかなか普段、目標や、なりたい自分を言葉にする機会などないと思います。自分の願望や野望。誰しもそんなことを口に出すのは少し恥ずかしいもの。ですが、澁川さん自身が自分の思い、理想とする自分や仕事のことを、率直に口に出して話しているのを聞いていると、「なりたい自分を隠していてはだめ」「言葉に出してみよう」、そんな気持ちが生まれてきます。

 

人は、理想の姿をイメージしていくのと同時に、プレッシャーや不安も感じると思います。「関わった人たち全員を応援したい」、その思いから、「TAILOR LINE」のジャケット裏には、ご希望の言葉を刺繍でお入れしているのだとか。その言葉は様々です。目標の言葉、子どもの名前……。困難な仕事の中で目標を見失わないように、家族の存在を身近に感じるように。テーラーだからこそ触れられる、人の気持ち。人とのつながりを大切に仕事をされている姿が浮かびます。

 

「以前、病気で余命半年と宣告されたお客様がいました。その方は40代。『まだまだやりたいことがたくさんある』、そうおっしゃって、スーツを四着オーダーして下さったのです」。

 

半年の余命宣告後、その方は６年生き、責任ある大きな仕事をいくつもこなし、まだ10代だった子どもたちに、その生き方をしっかり見せられたのだとか。「亡くなられた後に、残されたお子さんへ、父から子への思いを伝えることもできました」。テーラーとしてのやりがいと誇り。澁川さんがこの仕事を愛していることがよく伝わってきます。

 

大岡山のアトリエ兼ショップに並ぶ、美しい布地。触らせて頂くと、滑らかで心地いい。「TAILOR LINE」オリジナルのネクタイも、その艶やかさと色合いは美しいスーツに負けないセンスの良さです。

 

実は、澁川さんのお父様も銀座で長くテーラーをされていたのだとか。そんなお父様ですが、子どもがお店を継ぐことには大反対。ご自身のお店をたたんでしまったのだとか。それはテーラーという仕事の大変さ難しさを知っていたからこそ。ですが今、お二人は一緒に働いています。仕立てのプロフェッショナルであるお父様から学ぶことはまだまだたくさん。

「着る人が最高に輝く一着を作りたい」