リズムのおへそ ― 「東京香堂」ペレス千夏子さん、ジョフレさん vol.1

暮らしのおへそ
2020.05.06

火をつけて、煙が上り、香り立つ。
お香を焚くのは
暮らしのなかに自分でリズムを刻むため。


忙しい日々のなか、お香を焚くと、自分のリズムに戻すことができる。千夏子さんが「初めて香りを聞き衝撃を受けた」というにんじんの種の香りを使った「ラブキャロット」を。

 

お香に火をつけると、す~っとひと筋の煙が立ち上ります。しばらくすると、ふわっといい香り。

「煙があることで、『見えない世界』とつながっているような気持ちになるでしょう?」

そう教えてくれたペレス千夏子さんは、フランス人の夫・ジョフレさんと一緒に、「東京香堂」というお香のブランドを立ち上げ、香りの設計から製造までを一貫して手がけています。

美術大学を卒業後、テキスタイルデザイン事務所でテキスタイルデザイナーとして仕事をしていた千夏子さん。家業は寺院専門のお線香屋さんで、お寺にお墓参り用の線香やお香を届けるのが主な仕事です。妹さんが家業を継いでいましたが、東日本大震災後、「手伝って」と頼まれたそう。

「妹は、匂い袋など日本の香りの勉強をしていたので、私は西洋の香りを学ぼうと、香りの都と呼ばれるフランス・グラースに留学し、調香学校に通ったんです。西洋でも東洋でもない、新しい香りが作れたらいいなと思っていました」と教えてくれました。

そこで出会ったのがグラースの香料会社で働いていたというジョフレさんでした。帰国後に結婚。家業の新たなブランドとして、ふたりで「東京香堂」を立ち上げたというわけです。

「私が通っていた調香学校は生徒が12人で、国籍もバラバラ。たとえばイタリアでは、赤ちゃんのときにローズウォーターを体に塗るので、ローズは赤ちゃんの香りなんですって。香りと文化ってすごく密接に関わっているんだなということを知りました。そして、フランスの恩師が『君の国の文化であるお香屋さんとして、お香で頑張れ』と背中を押してくださったんです」

千夏子さんが香料を配合して香りの設計をし、その指示書に基づいてジョフレさんが製造を手がけています。


ふたりがお香を作るラボは川のすぐ横にあり、大きな木々に囲まれている。左がジョフレさん、右が千夏子さんの作業部屋で、完全に別々の空間でそれぞれの仕事をしている。

 

夫婦のペースは
無理して合わせない

起きる時間、食べるもの。
無理して同じにするのではなく
自分だけのリズムを見つけることが大事。


千夏子さんは朝7時半に起床。ひとりでゆっくりコーヒーを飲み、朝食を食べてから仕事に取りかかる。

 


千夏子さんの仕事場。香料は、毎年フランス・グラースに出向いて仕入れる。

 


ジョフレさんは朝5時半に起床後、すぐに仕事を。練り機を動かし、タブノキなどのお香のパウダーと香料を混ぜてお香を製造。

 


お香が完成。これを商品に合わせカットする。

 

→vol.2に続きます

『暮らしのおへそ Vol.29』より
photo:有賀 傑 text:一田憲子


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Profile

ペレス千夏子さん、ペレス・ジョフレさん

Chikako Perez、Geoffrey Perez

千夏子さん/1935年創業の寺院専門の線香専門店の孫として生まれる。美術大学卒業後、テキスタイルデザイン事務所でテキスタイルデザイナーとして活躍。妹と共に実家を継ぐことを決め、フランス・グラースの調香学校で学ぶ。
ジョフレさん/フランス・グラース生まれ。地元の香料会社で13年間働く。千夏子さんの帰国に伴い来日し、結婚。ふたりで「東京香堂」を立ち上げる。

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