『羊をめぐる冒険』のモデルになった町で、羊毛からフェルトの服を作る「粗清草堂」を訪ねて

今日のひとしな
2019.11.29

師走もすぐそこ。なんだかあわただしくなってきましたね。さて今日お届けするのは、デイリー連載「今日のひとしな」のスピンオフ企画。以前、登場していただいたお店の店主さんに、作家さんの工房を訪ねる旅の様子をご紹介していただきます~。

トップバッターは、2016年7月に「今日のひとしな」を担当してくれた、東京・石神井のセレクトショップ「copse(コプス)」の小森知佳さん。来週から展示が始まる「粗清草堂」さんに会いに、北海道のとても素敵な町まで行くというので、ブランドのストーリーはもちろん、その周辺も含めて取材をしてきていただきました! 2週にわたってお届けしますね。

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北海道の北部。稚内と旭川のちょうど中間くらいに美深という小さな町があります。人口4000人ほど。天塩川流域に牧草地や畑が広がるのどかな場所ですが、特別豪雪地帯に指定されている極寒の地。訪れる観光客もまばらながら、白樺林に抱かれたペンションがあったり、朝の光のなかで草をはむ羊の群れに遭遇できたり。

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厳しい気候風土に育まれた土地の研ぎ澄まされた景色に、はっとさせられることがしばしば。村上春樹の長編小説『羊をめぐる冒険』のモデルになったといわれている、どこか秘密めいた気配の漂う知られざる土地なのです。

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そんな町はずれの森のなかに、羊毛で服や小物をつくる「粗清草堂(そせいどうそう)」があります。

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訪れたのは秋の終わりの10月末。庭先では雪が降る前にと、羊小屋の屋根を掛ける作業が急ピッチで進んでいました。

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主宰する逸見吏佳さんは羊に魅せられ、導かれるようにして17年前にこの小さな町に移り住んだそう。現在は元農場の馬小屋を改築した工房兼住まいで、ご主人の暁史さんと娘の宇厘ちゃん、そして2名のスタッフと暮らしています。

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羊の毛で、ものづくりをする――。羊を身近に暮らす北海道の人にとって、自然な発想のように思えますが、一般的には食用を目的に飼育されていることが多く、羊毛は廃棄されるのがほとんど。羊牧場でその現実を目の当たりにした逸見さんは「捨てられる羊毛を生かしたい」と、ワークショップやルームシューズの制作をはじめます。

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羊毛には、毛糸にして編む、糸にして織るといった加工方法がありますが、逸見さんが選んだのは、羊毛をフェルトにする方法。
「羊の毛ってすごく個性があるんです。フェルトは糸にしない分、仕上がりが毛そのものの風合いに近く、個性がそのままカタチとなって表れる気がして」。

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刈り取られた羊毛のゴミを取り除いた後、ドラムカーダーで整え、石鹸を溶かしたお湯を掛けながら縮絨(摩擦)させるのが、大まかな作り方。大きな機械や道具を必要としない、原始的ともいえるシンプルな方法です。

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さらに逸見さんは、型紙の上に毛を並べて成形させる画期的な手法を確立。複雑なコートまで縫製せず仕上げるというから驚きです。

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小物から始まり、最近は洋服のバリエーションも増え、年々活動の幅を広げていますが、その道のりは決してスムーズだったわけではありません。食用として育てられている羊は雑種が多く、毛質が安定しないためフェルト化しづらいという問題が。試行錯誤の末、純血種の羊毛を混ぜれば安定することがわかりましたが、それらは輸入品がほとんど。
「捨てられる羊毛を生かしたいのに、わざわざ輸入品を買わなければならないことに矛盾を感じて。それなら自分で必要な羊を飼うしかないと思って」


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そこで2年前、クラウドファンディングを募ってフェルトに適したテクセル種の羊を3頭飼い始め、今年は4頭の仔羊が生まれ賑やかになりました。

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〝捨てられるものを生かしたい〟という発想は、日々の暮らしにも貫かれています。古い馬小屋だった工房兼住まいは、廃材を使って改築。

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寒い冬に備えて、600頭分の地元産羊毛を断熱材にしています。

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地元の大工さんの指導のもと、住まいを改築した経験をもとに、羊小屋はご主人の暁史さんがセルフビルドに挑戦しました。

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羊がいる風景に憧れ、いつか羊と関わりながら暮らせたら、という漠然としたイメージを、20年の歳月を経て実現させた逸見さん。
「捨てられるものを生かすのだから、つくる過程でゴミや無駄が出るのは本末転倒。今は少ししか出ないとしても、いつかたくさんつくることになったときに問題になってしまう。だから最初に問題をクリアにして進めたいと思っています。生活も同じ。日々の積み重ねを大事にしたいから」

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豊かな自然の中で羊がたわむれる原風景を胸に、ものづくりと一体となった暮らしへの思いが、そこにはあります。驚くほど軽くてあたたかな羊服を羽織れば、一途で熱いその思いがじんわり伝わることでしょう。

そんな「粗清草堂」のフェルトを中心としたアイテムが、来週から「copse」に並びます。初日には、逸見さんを囲んでのお話会を開く予定。白樺樹液仕込みのクラフトビールやドリンクも味わえますよ。逸見さんの羊服、実際に手に触れられる機会はなかなかないですので、ぜひ遊びにいらしてくださいね。

そして「暮らしとおしゃれ編集室」では、来週12/6(金)に、「粗清草堂」の工房がある北海道・美深に少しずつ増えてきている素敵なスポットをご紹介する予定です。こちらもお楽しみに!


「羊をめぐる冒険~北海道美深『粗清草堂』の羊服・羊品」展
期間:12/6(金)~14(土)*会期中無休
逸見吏佳さん在店日:12/6(金)~7(土)
(初日には逸見吏佳さんお話会を開催予定。
参加費2,000円で白樺樹液仕込みのビールかドリンクつきです)

 

←「コプス」の「今日のひとしな」はこちらから

copse(コプス)

東京都練馬区石神井台3-24-39 ロイヤルコトブキ 1F
TEL:03-6913-1544
http://www.copse.biz

※現在、企画展の期間のみの営業です

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