スタイリスト・高橋靖子さんインタビュー【前篇】

特集
2017.01.07

もう一度ヤッコさんに会いに

 

『大人になったら、着たい服』’16-‘17秋冬号の「大人のおしゃれアーカイブ」にご登場いただいた、ヤッコさんこと高橋靖子さん。日本スタイリスト界の草分け的存在で、スタリングを手がけたスターは、デビッド・ボウイ、ハリソン・フォード、布袋寅泰と、そうそうたる顔ぶれです。75歳になる今もバリバリの現役。

「歳をとって地味になるなんてことはまったくない。何歳になっても、新しいものをおもしろがりたい!」「孤独だからこそ、私は歳をとらないんだと思います」。そんなヤッコさんの言葉に、「元気をもらいました」「歳を重ねることが楽しみになりました」など、多くの反響をいただきました。そこで、自分自身をおもしろがらせ、何歳になってもキラキラと輝いて生きるには、どうしたらいいのか……。そんなお話をもう少し聞いてみたい、と再びヤッコさんに会いに行ってきました。

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 待ち合わせの日、ヤッコさんは幅広のレトロな柄のネクタイに、真っ赤なカーディガンを合わせて現れました。
「この間、久しぶりに一緒に仕事をしたテレビのディレクターが、『ネクタイ大好きなんだ』って言うから、次の日うちにあったものをどっさり持って行ったの。そこから彼が選んだ3本をプレゼントしたのよ。そのとき、私自身も『ああ、こんなのあったんだ』と見つけたのがコレ。どこのものかは忘れちゃった。私ね、ブランドにこだわらないから、すぐ忘れちゃうのよ」とおちゃめに笑います。

 そんなヤッコさん、実は今、大忙しなのです。というのも1月14日より、東京・新宿の「ビームス・ジャパン」5階の「B GALLEY」で、ヤッコさんの足跡をたどる「YACCO SHOW」が始まるから。スタイリングを手がけたロックミュージシャンたちのステージ衣装をはじめ、関わってきたCMや広告の関連資料、ご自身が出演されたTV映像、親交の深い人たちとの思い出深い宝物などが展示される予定なのだとか。 「やっとフライヤーができたのよ」とヤッコさん。見せていただくと、そこには迷彩柄のコートを着て、颯爽と表参道を歩くヤッコさんの姿がありました。撮影してくれたのは、長年仕事を共にしてきた写真家、鋤田正義さんです。

 「表参道で待ち合わせをしていた場所に、鋤田さんがカメラを持って現れたとき、私思わず泣き出しちゃいました。だって、デビッドや、イギーポップなど、いろんな人を撮影する傍らに立ってきたけれど、そのカメラがまさか自分に向けられるなんて思ってもみなかったから……。鋤田さん、いつもは現場でピリピリした緊張感を漂わせているんだけれど、その日だけはニッコニコ。『はい、手を振って〜』とか、『もう一度歩いてきて!』とか。私も全然緊張せずに「私、アイドルみたい!」なんて思っちゃった」と笑います。

 フライヤーには、こんな言葉が綴られていました。
「この展覧会は、私のスタイリスト歴50年のびっくり箱です。時代が変化しながら流れていくなかで、いつも、もがきながら、楽しみながら生きてきた自分自身を発見して、ワクワクしています」

 50年間、振り返ってみて今どんな思いですか?と聞いてみました。すると、こんな話をしてくれました。
「とある芸能人の方のスタイリングをずっと担当させていただいているんだけどね、ある日彼が「毎日同じことをやって50年経っちゃったよね」と話していたの。私は、彼に洋服を着せたりしながらその話を聞いていて「私も、そうです。私もそうやって50年目です」と言いたかった。でも、言えませんでした」

 CM撮影のときには、完全な裏方に徹するのだと言います。女優や俳優さんに、自分から話しかけることもめったにないのだとか。そうやってピシッと線引きできるのも、プロフェッナルとしてのヤッコさんの姿のよう。

 

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 大学卒業後、コピーライターになりたくて、広告代理店に就職。でも、自分でいいと思わないものも「いい」を書かなくてはならない広告の世界に違和感を感じ、8か月で辞めてしまいました。その後、原宿のセントラルアパートにあった広告制作会社で、頼まれるままにもの探しやスタイリングを手がけるように。それが今日へと続き、今年スタイリスト歴51年目を迎えます。

「あの大物芸能人が『50年同じことをやってきた』と言えるのは、今まで過ごしてきた日々に誇りがあるからだと思うんです。本当に“そのこと”が好きだったっていうこと。その想いは私も同じですね。昨日やったことを今日やって、今日やったことを明日もやる。それが50年間続いている……。1日1日なんですよ、本当に」

 ヤッコさんの1日1日は、いったいどんなものだったのでしょう? 次回は、そんなヤッコさんの歩みについて伺います。

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→後編に続きます

 

撮影:ワタナベアニ  取材・文:一田憲子

 

YACCO SHOW
開催期間:1/14~2/12 11:00~20:00
開催場所:B GALLERY (BEAMS JAPAN 5F) 東京都新宿区新宿3-32-6
http://www.beams.co.jp/bgallery/

Profile

高橋靖子

YASUKO TAKAHASHI

1941年生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、大手広告代理店を経て、原宿セントラルアパートにあった広告制作会社に転職、スタイリストに。その後フリーランスとして独立。ロンドンでの山本寛斎氏のファッションショーをプロデュース。70年代からデヴィット・ボウイをはじめ、数々のミュージシャンや俳優の衣装を手がけ、現在も広告を中心に活躍中。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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