揺らがぬおへそ ― 「蓼科バルノート・シンプルズ」萩尾エリ子さん vol.1
毎日庭を散歩して
移りゆく四季を見つめれば
足もとの地面が決して変わらぬことに気づく。
お店の裏には、季節の花が咲く庭が広がる。「若い頃は、自分の器から出られないように感じていたのですが、ここに住みはじめたらするっと抜けて、自由だなと感じるようになりました」と萩尾さん。毎日、お店に到着すると、庭を散策して植物に話しかける。
毎日、お店に到着すると、萩尾さんは庭へ。オダマキ、ワスレナグサ、ニリンソウ……。足もとに咲く小さな草花は、季節ごとに変わっていきます。
「木の時間、草の時間、花の時間があって、それぞれの持ち時間が組み合わされていることが、すごくいいなと思っています。まわりの四季は変わっていくけれど、地面に足がついていることが大事だっていつも思うの」
そう語る萩尾さんが長野県に移り住み、薬草店「蓼科ハーバルノート」をオープンさせたのは40年前のこと。
東京・世田谷に育ち、専門学校卒業後、広告代理店に勤めながら通ったコピーライター講座で、「8歳年上のオジサンと出会っちゃったのよ」と笑います。オジサン=夫とシャンソン歌手の義姉と3人で、青山でバーを始めました。萩尾さんはカクテルを作り、ジャズが流れ、世界のコマーシャルフィルムを映像として流していたお店は、クリエイターの間でたちまち評判に。
「でも、いつも、舞台装置の中にいるような気分でした。これって本物じゃないよねって」
たまたまお弁当を持って夫婦ふたりで蓼科に小旅行をしたのを機に、移り住むことを決めたのだとか。
「木々の香りを吸い込んだら、ほっとしましたね。東京でも明治神宮に行けば、ふっと息がつけたもの。私のテーマのひとつに『緑の気配』があるんです。無意識にそういうものを探していたのかもしれません」
東京にいた頃から、ベランダでミントを育てていたという萩尾さん。自然に選んでいたのがハーブショップを営むことでした。
「乾燥ハーブがずらりと並んでいるパリの古い薬草店のイメージでした」
同時にあらゆる本をひもとき、ハーブや精油などの勉強も始めました。
香りで息を深くする
樹木の香り、小さな花の香り、風や土の香り。
身の回りの香りに気づけば息を深く吸うことができる。
この日、店先いっぱいに広げていたのは、オークの葉っぱ。束ねて壁に吊るしたり、時には体の上にのせてみたりと、香りを体じゅうで味わう。「どの木でなきゃという決まりはないの。身近にあるものを探してみてください」
つらいときの手立てをもつ
左/心がつらいときは、ベルガモットの精油をジェルに混ぜて手首に塗ると「香りの点滴」に。 右/イライラするときは、ラベンダーのサシェを。
摘みたてのハーブでお茶をいれる
レモンバーム、マジョラム、レモンバーベナなどにお湯を注ぎ、さわやかな夏のハーブティーを。冷やしてもおいしい。
自然の草木をディフューザー代わりに
トウヒや松、カモミールジャーマンなどを洗面ボウルに入れてレモンをのせ、沸騰したお湯を回しかけ天然のディフューザーに。
→vol.2に続きます
『暮らしのおへそ Vol.30』より
photo:寺澤太郎 text:一田憲子
Profile
萩尾エリ子
長野県茅野市でハーブショップ「蓼科バルノート・シンプルズ」を営む。1992年~ ’99年に開いていたレストランは、庭や畑からやってきた食材をランチにし、多くの人を魅了。諏訪中央病院や諏訪赤十字病院精神科では、園芸作業やアロマを中心にしたボランティアを行っている。
https://www.herbalnote.co.jp
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