「感性を呼び起こせ」…おすすめ帖vol.85

おしゃれさんコーディネート
2022.07.23


『ナチュリラ』本誌でも、季節ごとのリアルクローズとそのおしゃれな着こなし方を提案してくださっている人気セレクトショップ「アナベル」。店主の伊佐さんによる「季節のおすすめ帖」連載コラムです。季節ごとのおすすめの品を月に2回、ご紹介しています。

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photo:川本浩太 text:伊佐洋平 model:伊佐奈々

 

自身でお店を始めて11年目となり、「R.U.(アールユー)」という靴のお取り扱いを開始して10年が経とうとしています。前職でのお仕事を通して、初めてこの靴の存在を知ってもう15年以上になりますが、昨年の冬に初めて作り手にお会いしました。すぐに作り手に会いたくなる僕のなかで、日本人の作り手に15年もお会いしたことがないというのは大変なレアケースです。

 

「なぜお会いする機会がなかったのか?」

 

理由は非常にシンプルで、作り手本人が作ることに撤したいあまり、販売することを全て他の会社にお任せしており、販売の現場にもほとんど顔を出すことがなかったから、でした。もちろん、販売代行の会社は本人が信頼を置いていた人物であったことは間違いありません。しかし今年の春、思い立って自身で販売までを一貫して行うことを決意したとのこと。お手紙と共に初の自身による展示会の案内状をいただいた僕は、待ってましたとばかりに神戸へ向かいました。昨年末のことでした。本当に繊細で、美しい靴を適正価格で作る作り手とは、いったいどのようなセンスの持ち主なのか、楽しい想像をはたらかせながら向かいました。

 

 

アトリエに入ってしばらく、じっとその空間に馴染み、観察すると、まさに靴に感じられる繊細なこだわりや作為のない美しさを体感することができました。小難しい言い方をやめてシンプルに言うと、、「カッコつけてないけどかっこいい空間でした。」しかし、そう感じさせる空間ほど強いこだわりのある人物が整えているであろうことも同時にわかりました。心から心地よく、長居しても見飽きないから不思議です。

 

 

妙に綺麗に整頓された空間ではありませんが、一つ一つの工具は長年の使用感から迫力を醸し、彼が作業場に座るとなんとも絵になるのです。

 

「R.U.(アールユー)」の靴は、昔ながらのマッケイ製法という手法で生産されており、一足の靴を一人の職人が完成させるそのスタイルは、ベンチスタイルと呼ばれます。写真の通り、一人の職人がベンチに腰掛け、靴を完成させることからそのように呼ばれています。効率を求め、分業制を確立し、生産スピードと低コスト化に成功したアメリカやイギリスのグッドイヤーウェルト製法とは対照的なわけですが、これは決して良し悪しではありません。グッドイヤーウェルトの靴は、丈夫でアッパーがダメにならない限り何度でもソールの張り替えが可能で、より高価な素材を低コストで大量に生産することが可能。そのため、上質なビジネスシューズや紳士靴などにはこの製法のものが多いことは確かですし、私も大好きな靴の多い製法です。

 

 

「R.U.(アールユー)」の作るマッケイ製法の靴は、どのような特徴があるのか? まずは前述した通り、一足を一人の作り手が完成させるベンチスタイルであるため、効率は悪く、生産性は劣ります。しかし、その反面で作り手の個性を表現するには非常に適した製法であると言えるのです。それは勿論、見た目だけではなくフィッティングという個性も含めてのお話です。今回お会いすることで、フィッティングにおける彼らのこだわりには、より一層の理解を深めることができました。

 

今回は、久しぶりに入荷したAbbey(アビー)という靴をご紹介したいと思います。

 

 

さまざまなレザーを使用する彼らですが、こちらはゴートスキン(山羊革)を使用した「デッサン」というシリーズのシューズです。

 

 

こちらのシリーズは、シューズをキャンバスに見立て、描くように仕上げる工程をふみ、独特な表情を生み出した、このブランドならではの感性が詰まったシリーズではないかと思います。

 

 

仕上げの工程で、靴を水に通すことでこの独特なシワ感が生まれます。そして手にしたお客様が履いて、馴染むことで革がしっとりと美しい表情に磨きをかけるのです。

 

 

ヒールのスウェードは滑り防止となり履き心地を裏側で支えます。

 

 

マッケイ製法は、アウトソールまで縫い目が貫通しているのが大きな特徴です。そのためソールは薄く済み、コバがなくても製造ができ、見た目が非常にスタイリッシュでとても軽い仕上がりであることが大きな特徴となります。一方でデメリットは、アウトソールが傷んできた際に、そこから水を吸収しやすいことが挙げられます。そのため我々も、そうなる前にアウトソール側にラバー製の薄い裏張りをすることをお勧めしています。それにより、ソールのケアがほとんどなくなり、雨に降られても安心して着用していただけるからです。

 

 

今回は前回までと展開カラーを変え、ブラックとダークブラウンの2色展開にいたしました。前回までの赤みのあるブラウンと比べると、非常に濃い、一見ブラックとの差がわからないようなお色ですが、非常に奥行きのある良いブラウンかと思います。

 

 

妻も自身で何足も所有し、長年にわたり愛用する革靴です。履き心地がいいのは勿論のこと、アナベルのお洋服との相性は抜群です。どのモデルをとってもクラシカルでありながら普遍性を感じ得る個性を持ち併せ、所持した皆様の満足感を満たしてくれる靴だと断言できる品質です。

 

 

嬉しいご案内に誘われ、日帰りで赴いた神戸で初対面を果たしたその日、会話のほとんどを偶然にもお互いに共通であった趣味のお話に興じたことがこのアトリエの美しい景色とともに忘れられない思い出となりました。

 

 

この靴は、代表である魚住氏を支える女性スタッフの履いていた靴です。あまりにカッコ良かったため、写真を撮らせていただきました。穿き込んだワークパンツが素敵なそのスタッフは、「この靴は傷ついても補修しないでこのまま履いているこの感じがいいと思うんですよね。」と言って笑っていた。お手入れについて一言聞いただけで1000文字くらいの熱意ある返答が返ってくるほど知識も経験も豊富な彼女が、このデザインはあえてこれで履くというそのセンス。それを見ることが出来たことも、日帰りで神戸まで行った収穫の一つでした。ちなみにその日から、僕の携帯の背景写真はこの一枚です。正解を求めがちな着方、履き方ですが、ぜひご自身の中に潜んだ感性を呼び起こし、自由な発想でファッションを楽しんでいただけたらと思います。

 

 

靴:R.U. Abbey ¥44,000(税込)

 

 

 

 

 

発売中の『ナチュリラ』2022春夏号でも伊佐さんが提案する着こなしをご紹介しています。本誌もぜひご覧になってみてくださいね!

 

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