エンディングノートを書いて「私」を人生の主役に!【後編】
沼津の雑貨店「hal」店主・後藤由紀子さんが、その道のプロに教わりながら、大人の知恵やワザを身につけアップデートしていく連載企画。今回のテーマは「エンディングノート」です。【前編】では、エンディングノートは暮らしの引き継ぎノートであり、これからの人生を描くうえで大切な設計書だということを、ファイナンシャルプランナーの山口京子さんに教わりました。
【後編】では、ノートに実際に書き込みながら、書き方のポイントを教わっていきます。
後:「項目がたくさんありますが、全部のページを埋めるのは大変そうで……。この中で、必ず書いておいたほうがいい項目ってありますか?」
●資産状況
山:「まず大事なのは、家の資産状況ですね。貯金や株などの金融資産、入っている保険などを書いておくのをおすすめします」
後:「いざ書くとなると、自分の認識もあやふやだったことに気づくんですよね。そういうことを改めて整理できるし、いざというときこれを家族に見てもらえればいいという安心感にもつながる気がします」
山:「すべて書き出すのが大変なら、キャッシュカードや通帳を並べて写真を撮り、プリントしたものをノートに挟んでおくだけでもいいんです。通帳のないネット銀行などは、きちんと書いておく必要がありますが」
後:「写真に撮るだけなら、すぐにできそうです!」
山:「ひとつ注意なのは、盗難リスクです。エンディングノートの保管場所は慎重に考えてくださいね。また、口座情報のパスワードは一文字隠して書くとか、パスワード表だけ別のノートに分け、保管場所を家族に伝えておくとか、紛失や盗難に遭ったときのための備えも必要です」
後:「なるほど、書いたあとの管理も大事なのですね。他にも必須項目はありますか?」
●いざというときの意思表示
山:「延命治療や臓器提供のことは、もし決めているのであれば意思表示をしておいたほうがいいと思います」
後:「いざ近しい人が……となると簡単には判断できないですよね。本人がどうしたいと思っていたのかを知ることができるだけでも、家族が決断しやすくなるかもしれませんね」
山:「あと、こんなお葬式をしてほしいといった希望があれば、書いておくといいですよ。もちろん、夫の会社や親戚の手前とか、家族の思いなどから、希望に沿ってもらえるとは限りませんが……。でも、のこされた家族が判断するための材料にはなります」
後:「私もできる範囲でいいけれど、希望は書いてあります。お葬式で流す音楽も決めて、CDをノートにはさんでいるんですよ。Everything But The GirlというバンドのCDで、人生で一番効いたアルバムです」
山:「そこまでご準備なさっているなんて、素晴らしい!」
●遺品整理
山:「あと、遺品整理、つまり形見分けのページも意外と大事ですよ。例えば着物やお人形など、値打のあるものなのか処分していいものなのか、家族に
後:「実際に書いてみて、実はここが一番しんどいページでした。例えば私がとても大事に思っている器を、あの人に引き継いでほしいなと思ったとしても、もしかしたら相手は負担に感じるかもしれない……などと考え始めると、なかなか筆が進まなくて」
山:「いまのうちから話しておけばいいのではないでしょうか。『この器は本当
後:「なるほど! それならすっきりしますね」
山:「ものの価値とか、そのものへの思い入れは、本人にしかわかりませんからね」
後:「遺品整理というと大げさに聞こえますが、“大事なものリスト”として書き出していけばいいのですね。これから買い物をするときに、のこしたいものかどうか、という視点も加わるかもしれません」
山:「この『私のエンディングノート』には、お葬式の基礎知識や相続税、
●エンディングノートの更新
山:「ちなみに後藤さんは、以前書かれたエンディングノートの更新はされていますか?」
後:「はい、誕生日がくるたびに見直しています。変更したい項目も出てきますし」
山:「誕生日という節目に見直すのは、とてもいいアイディアですね! 見直すのは年に1回くらいが、私もちょうどいいと思います。たとえば、この銀行口座を解約してもうひとつの口座にまとめたとか、貯金の金額が変わったとか、資産のページは毎年更新しておきたいですね。仕事や社会とのかかわり方が変わったときは、連絡先も変わることが多いので、そこも見直しましょう。また、いざというときの意思表示も、案外書いたときから気持ちが変わったりするものなので、自分はどうしたいか、改めて見直す機会にするのもいいですね」
後:「やはり更新は大事なのですね」
山:「私たちは日々、成長していますよね。いろんな方に会って、多様な価値観に触れることによって自分が変わっていくものです。そんな中で、考えが変わったところだけ、ノートを上書きしていくのがいいと思います」
後:「変更するページは、修正ペンなどを使って書き直せばいいのでしょうか?」
山:「手書きにこだわらず、パソコンで入力してプリントしたものを上から貼り付けるのでも大丈夫ですよ。毎年更新するページなら、付箋を使うのも手軽でいいと思います。最近は、スマホのアプリやエクセルで管理できるツールもあるので、資産状況だけでも整理しておくと安心ですね」
後:「エンディングノートを書くのは、自分自身にじっくり向き合える貴重な機会だと思います。今回改めて、自分の人生は『有限』だということに気づかされました。営んでいる店『hal』が20周年を迎えたり、子供たちが独立して夫婦ふたりの暮らしが始まったりと、最近特に『これから』を考えることが増えてきた中で、もっと人生を楽しもうとか、時間を有意義に使おうという意識が強くなった気がします」
山:「エンディングノートを書くと、自分が主役になれます。人生というステージの中の主役は私だったんだ! ということに、きっと気づいていただけます。90歳まで生きるとしたら、あと30年以上。そんなに時間があるんだったら、雑貨屋さん、あと3つくらいつくってみようって思うかもしれないし、お店に着物を絡めたらどうかな、なんて新しいアイディアが出てくるかも!」
後:「そうですね。まずは、これからやりたいこと、やってみたかったことを書いてみます。私の人生、変わるかもしれないですね。楽しみです!」
text:鈴木麻子 photo:岡 利恵子
Profile
山口京子
フリーアナウンサーを経て、ファイナンシャルプランナーに。家計管理、貯蓄・資産運用のプロフェッショナルとしてテレビ、ラジオ出演や、セミナー講師、執筆活動と幅広く活躍。主な著書に『貯金ゼロから始める「新へそくり生活」のススメ』(プレジデント社)、『なまけものが得をするワンコイン積立投資術』(ダイヤモンド社
https://kyoko-yamaguchi.com/
Instagram「kyoko.yamaguchi.315」
LINE公式「@251cdges」
後藤由紀子
静岡県・沼津で器と雑貨の店「ハル」を営む。最近は「出張hal」として日本各地で期間限定の出店も。二人の子供は社会人となり、子育てもひと段落。暮らしの工夫や気づきを綴った飾らないエッセイも好評。ママ向けオンラインコミュニティ「ママカレ」の講師としても活躍中。20周年を迎えるお店やこれまでの歩みを綴った随筆集『雑貨と私』(ミルブックス)を、この春に出版予定。
Instagram「@gotoyukikodesu」
YouTube「後藤由紀子と申します」
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