私の生まれ育ったところ。~東北のこと~
近藤幸子の「料理のこと」vol.4
東京・清澄白河で人気の料理教室「おいしい週末」を主宰する近藤幸子さんのふるさとは宮城県のとある小さな町。その土地に根ざした食材や料理と、デパートで働いていた母が持ち帰ってくる目新しいお菓子などが、近藤さんの食のルーツにはあると言います。
********************
生まれ育った宮城県の小さな町を思い出すとき、まっさきに浮かぶのは、どこまでも広く地平線が広がる田舎の風景。稲の緑色の絨毯がゆらゆらと揺れ、どこまでもどこまでも広い空が広がる、そんな風景です。東北へ向かう新幹線の中からこんな風景が見えてくると、うれしくてぼんやり見入ってしまいます。日々忙しく仕事と子育てしている気持ちがほっとほぐれ、心の中でただいまとつぶやきます。
一緒に暮らしていた祖父母が農家だったので、実家の敷地には広い畑があり、どの季節にも採れたてのたくさんの野菜とくだものがありました。食事の中心はいつも野菜と魚。肉はおまけ程度の存在でしか、食卓に上らなかった気がします。お湯を沸かすために鍋を火にかけてから、畑にほうれん草を摘みに行くような生活をしていました。採れたての野菜のうまみや甘みを常に味わっていたのです。いつも野菜料理を作る時に、余計な調理や調味料をそぎ落とすことを大事にしているのは、食べ慣れた野菜の無垢なおいしさを大事にしたいと思うからなのかもしれません。
私のふるさとの話をするときに、忘れてならないのは郷土料理の「はらこめし」です。実家にいた頃は、秋になると近くで獲れたメス鮭を何度かいただき、その度に稲刈りしたばかりの新米一升で、はらこめしを作っていました。
はらこめしは、鮭を刺身のように切って煮、その煮汁とアラでご飯を炊きます。炊きあがったご飯を器に盛り、煮た鮭と醤油漬けのいくらをたっぷりのせてでき上がり。素朴ですが、鮭のおいしさを存分に味わえる、私にとって誇らしい郷土料理です。東京では知らない方も多く、食べられるお店も少ないので、秋になると細々とはらこめし会を開催して地道に普及活動しています(笑)。
その一方で、仙台のデパートで働いていた母が持ち帰ってくる、おいしく目新しい食材やケーキが、いつも楽しみだったこともよく覚えています。当時の田舎暮らしでは珍しく、朝は豆から挽いたコーヒーを淹れ、フランスパンとチーズがあれば何もいらないわというような母だったので、子供ながらにそんな世界への憧れも強くありました。小学生のころ、母が買ってくる料理雑誌を切り抜いて作ったスクラップブックは今でも大事にとってあります。
今の私を作る故郷と家族。物心ついたころは、なんて退屈な町だろうと思っていたけれど、今、心からあの環境で育ったことに感謝しています。良くも悪くも大らかでマイペースな私らしさは、あの土地で育だったからなのかもしれません。
文・写真/近藤幸子
近藤幸子さんの著書『重ねて煮るからおいしいレシピ』(主婦と生活社)より
牡蠣、トマト、白菜のスープ煮
「海の幸と山の幸を合わせたレシピ。和食のようでもあり洋食のようでもあり…いろんな料理と合わせやすい一品です」
材料
牡蠣 ─ 200g
→ 流水でふり洗いし、ざるに上げる
トマト ─ 2個
→ へた部分をくり抜き、浅く十字に切り込みを入れる
白菜 ─ 1/8株
→ 食べやすい大きさに切る
水 ─ 300ml
白ワイン ─ 100ml
塩 ─ 小さじ1/2
オリーブオイル ─ 大さじ1
レシピ
1 鍋にオリーブオイル以外の材料を入れて強火にかけ、沸騰したら中火にして1分ほど煮、
牡蠣を取り出してあくを取る。
2 ふたをして中弱火で15 分ほど煮る。途中でトマトの皮を取り除く。
3 牡蠣を戻し入れてひと煮立ちさせ、器に盛り、オリーブオイルをたらす。
note
・牡蠣によって塩分が違うので、塩けが足りなければ塩を加えて調整する。
・トマトを崩しながらいただくことで酸味が全体に行き渡る。
・余ったらリゾットにアレンジ。スープ200mlを沸騰させ、ご飯1膳分とバター5gを加えて中火で1分ほど煮る。具材も残っていたら適宜加えてひと混ぜし、黒こしょうをふる。
料理写真/鈴木泰介
Profile
近藤幸子
料理研究家、管理栄養士。宮城県出身。料理学校、料理研究家のアシスタントを経て独立。楽しみながら作る料理教室「おいしい週末」主宰。簡単でシンプル、それでいて気の利いた料理を好む。子育てをする日々の中で、がんばりすぎないコツを研究中。著書に『おいしい週末、だれか来る日のごちそう献立』(地球丸)など。
おいしい週末Web
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。