脚本家・木皿泉の幸福論 Vol.4
Vol.3はこちらから
毎日ふたりでとことん話して、
食べて、寝て。
書きたくなるまで、ひたすら待っている。
締め切りなんてぶっ飛ばすくらいに
リミッターを外さなければ
おもしろいものなんて生まれないから。
木皿泉さんの描く作品は、
ほのぼのしているようでいて、
ふとした台詞に深~い人生教訓が
たくさん隠されているのも観どころのひとつ。
たとえば、代表作となった連続ドラマ『すいか』
(小林聡美さん演じる主人公、
信用金庫のOLで34歳の早川基子が、
風変わりな人々が住む賄い付き下宿パピネス三茶での
出会いを通し成長していく伝説のドラマ)
最終回にこんなシーンがありました。
小泉今日子さん演じる、基子の同僚で
3億円を横領した馬場チャンが逃亡中、
基子に会うためパピネス三茶を訪ねますが、
誰もおらず、流しには住人たちの朝食後の食器が。
そこに残された梅干の種を見た馬場チャン。
そのときの自分の心境をこう打ち明けます。
馬場チャン:朝ご飯、食べた後の食器にね、
梅干しの種が、それぞれ、残ってて。
何かそれが、愛らしいって言うか、
つつましいって言うか。
あ、生活するって、こういうことなんだなって、
そう思ったら、泣けてきた。
基子:そんな……おおげさだよ。
馬場:全然おおげさじゃないよ。
掃除機の音も、ものすごく久しぶりだった。
お茶碗やお皿が触れ合う音とか、庭に水まいたり、
台所で何かこしらえたり、それを皆で食べたり──
みんな、私にはないものだよ。
そんな大事なもの、たった3億円で手放しちゃったんだよね。
3億円を横領して、終わりなき凡庸な日々の
閉塞感をぶち破ったかに見えた馬場チャンが、
いつもそばにあった愛おしい日常の価値に気づくという場面。
「誰もが馬場チャンになりたい瞬間はありますよね。
女優さんもみんな馬場チャンを演りたいっていうの。笑」
Vol.5に続く
text:木村愛 photo:興村憲彦
Profile
木皿泉
和泉努と妻鹿年季子による夫婦脚本家。2003年連続ドラマ『すいか』で向田邦子賞を受賞。2005年年『野ブタ、をプロデュース』、2010年『Q10』など人気ドラマを多数手がける。2013年、初の小説『昨日のカレー、明日のパン』(河出書房新社)を上梓。NHKで放映されたドキュメンタリーを収録した『木皿泉~しあわせのカタチ~DVDブック』も話題。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。