【北の住まい設計社】 新しいものの見方に出会える わざわざ足を運びたい店(2)

Comehome!
2025.01.03

※Come home! webに掲載された記事を転載しています

地球温暖化による異常気象が問題になり、社会全体で環境を守る意識が高まりつつある今、何十年も前から、地球のために何ができるか模索しつづけている家具メーカーがあります。 それが北海道東川町にショップやカフェを開く「北の住まい設計社」。 自然を守り、生かすためのもの作り、という視点で家具作りに励むオーナーの渡邊さんのもとを訪れました。

この記事は、Come home! vol.69より抜粋しています。

北の住まい設計社 ◎ 北海道

木の性格や成長の仕方を知るのに 
いちばん身につくのが自然のなかで働くこと 
そんなフィンランドでの経験から 
大雪山の麓に店を構えました

大雪山系の雄大な山並みに田園風景が広がる北海道東川町。ここに北海道産の無垢材を使ったオリジナルの家具製作や販売を手がける「北の住まい設計社」東川ショールームがあります。

訪れると、店というよりそこは森そのもの。木々や花々が生い茂り、小鳥がさえずる自然豊かな環境のなか、ショールームのほか、生活雑貨のショップや約100年前の小学校を活用した工房、カフェも併設されています。


1928年に建てられた東川町立第五小学校の校舎。面影は当時のまま、 修繕しながら工房として大切に使っています。


こちらは元体育館。断熱材など入っていない古い建物だから、冬場は薪ストーブで暖をとりながら作業します。


テーブルやソファ、収納家具など、余計な装飾がなく、シンプルな家具が並びます。


北海道産の木の美しい木目を最大限生かした「Oval extension table」。 金具はいっさい使わず、すべて手作業で仕上げます。


カフェでは実際に
家具に触れられます


暮らしそのものを大切にしたい思いから、衣食住にまつわる良質なアイテムを集め、ショップやカフェを敷地内に併設。



カフェで提供している、体にやさしい食材や地元の野菜をふんだんに使ったランチメニュー。

37年前にここへ来たときは、何もない寂しい場所だったんですよ」。そう語るのはオーナーの渡邊恭延さん。寂れていたこの場所に木々を植え、 40年近くかけて森のように育ててきました。


代表取締役の渡邊恭延さん。1985年に東川町に移住。 自然と共存しながら、家具作りを続けています。

デザイン事務所で10年ほど修業した後、独立した渡邊さん。しかし、 自分の目指すデザインが定まらず、 思いきって1カ月ほどフィンランドへ旅に出ました。そこで目の当たりにしたのは、自然とともに生きるフィンランド人の姿でした。「湖のほとりですごしながら仕事をするデザイナー。この人、いつ仕事しているんだろうって思うほどリラックスしていて。都会にあるオフィスで真面目に働く日本とは全然違っていた。 自然のものを扱う仕事だから、自然を目の前にした場所で働くほうが、そこでしか生まれない気づきがあるんだって察したんです」

そしてたどり着いたのが雨もりだらけの小学校と教員住宅がたたずむこの場所。屋根を葺き、ペンキを塗り直し、わずかな機械設備を整え、 家具作りをスタートさせました。


薬剤処理が施されていない道産材を使い

余った木材は堆肥にして土に還す—— 
森からいただいた命への感謝をこめて

資源は余すことなく使いきるようにしています

大自然のなかで暮らしながらもの作りをするうち、渡邊さんに新たな価値観が生まれます。それは「自然を守らなくては」という願い。その強い思いから、家具作りに使うすべてを自然に還るものにしました。木材は薬剤が塗布されていない無垢材だけ、それも輸送エネルギーなどの観点から北海道産だけにシフト。塗装も自然由来のものしか使いません。


3〜4年かけて自然乾燥させた木材を、それぞれの個性に合わせてカット。温度・湿度を一定に保った倉庫で保管。



木端(こば)は冬場に暖をとる薪として、木材を切るときに出るおがくずは堆肥として活用。薬品を使っていないから土に還せます。



無垢の太い木があればとりあえず仕入れるそう。どう活用するかはあとで考えます。


さらに樹種にこだわらず、そこにある木材を生かす視点をもつようになりました。「たとえばナラの家具にこだわるとナラ材だけ伐採することになる。でも雑木林にはいろんな木が生えているから、バランスを保たなければいけないんです」。

ひとりの職人が最後まで作り上げるので
一台一台思いが詰まっています


修理しながら長く使えるよう、昔ながらの工法でひとりの職人がひとつの家具を手仕事で完成させていきます。



家具一つひとつに「責任者シール」 と呼ばれる、いつ、どの職人が作ったかがわかるシールが貼られています。



着色には西洋の絵画で長く使われてきた天然塗料「エッグテンペラ」 を採用。1 カ月以上かけて乾燥させます。

 

長く使えるように
修理や交換しやすい工法を採用


伸縮する無垢材は動きに対応する継ぎ手が不可欠。こちらはほぞ組みのために施された突起。釘を使わずに接合でき、強度も高いそう。



高い精度が求められるエクステンションテーブルのレール。熟練の技術が光ります。

今、北の住まい設計社では家づくりまで事業を広げています。その背景にあるのがまさに木を生かす考え。「家具には不向きの木もありますが、家には壁や床、天井にさまざまな木を使えるんです」。自然からありがたく頂戴した木材を最後は薪にしたり堆肥にしたりと、土に還していく。 北の住まい設計社で作られる家具や家には、自然への深い敬意と人間としての責任がこめられています。「道筋はつくったから、あとは次の世代につなげたい。自然の力を借りるには手間を惜しんじゃダメ。手塩にかけないとね」。 40年をかけて小鳥がさえずる森になったこの場所で、そう語る渡邊さん。渡邊さんの活動と、 家具にこめてきたメッセージに共感したスタッフが集まり、自然を大切に思う気持ちを絶やさないよう、次世代へ受け継がれています。



北の住まい設計社
東川ショールーム
北海道上川郡東川町東 7 号北7線
TEL0166-82-4556
10:00 ~ 18:00(水曜休) 
※カフェの営業時間はHPよりご確認ください
http://www.kitanosumaisekkeisha.com/

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