若桜町(鳥取)編vol.4 季節の度に訪れたいレストラン「山のブラン」・革工房「lore + needles」

地元のおしゃれさんが 案内する 小さな旅
2025.06.28

鳥取県といえば砂丘を思い浮かべる方が多いではないでしょうか。他にも日本海の荒波によって作られたダイナミックな景観と透き通った美しい海の「浦富(うらどめ)海岸」や中国地方最高峰の「大山(だいせん)」など自然の数々が楽しめます。
そんな鳥取県の東南端に位置し、岡山県と兵庫県の県境に接する若桜町(わかさちょう)。イラストレーターでもあり若桜町で「ギャラリーカフェふく」を営むひやまちさとさんに素敵な旅のコースを考えていただきました。是非旅行の計画を立ててみてくださいね。
 



鳥取県若桜町でギャラリーカフェふくを運営する、イラストレーターのひやまちさとです。鳥取県は海と山に囲まれた日本で一番人口の少ない県ですが、自然や食材の豊かさ、静かな環境など、ここだからこそ生まれるお店や場所があります。これまで3回にわたって私が暮らす鳥取県東部エリアにある若桜町を中心にご紹介してきましたが、最終回はお隣の智頭町(ちづちょう)にあるレストランと作家のアトリエをご紹介します。



若桜町にあるギャラリーカフェふくからも、JR鳥取駅からも車で約50分。このまま関西方面にも向かうことができる中国自動車道を一度おりていただくと、山に囲まれた智頭町があります。トンネルを抜けるたびに変わる山の表情や季節の花たちを愛でながらのドライブ、とってもおすすめですよ。大きな道路に面した「BRUN」の看板を目標に横の小道に入ります。



最初にご紹介するのは、ベイク&ローカルダイニング「山のブラン」です。フランスで料理を学んだシェフの石田創さんと妻の恵子さんが営んでいます。2018年に智頭町の土師駅(はじえき)近くにオープンしたレストランで、開店当初より智頭の鹿肉を使ったメニューがあります。以前に私が伺った時は、数種類のランチを提供されていましたが、2024年よりランチ、ディナーともに完全予約制のおまかせコースでの提供が始まりました。そのお知らせを聞いて、より再訪したい想いが募り、4月の終わりに友人を誘ってランチへ伺いました。


山のブランは、鳥取市内にあるナチュラル系の雑貨やお洋服を扱う「ブランワークス」のレストラン部門として始まったそう。木や石の素材に囲まれた落ち着いた店内には、ブランワークスがセレクトした食器やアンティークの家具などが並んでいます。私も大好きな山のブランが作るシンプルで奥行きのある焼き菓子もあります。テーブルにつくと、細いスリットの窓からは長閑な山の景色が見え、これから始まるおまかせランチコースに静かに胸が高鳴ります。


最初の一皿目には、蕎麦粉のガレットを器に仕立て大豆のフムスをベースに、季節の野菜が5種類盛られたタルトサラダ。続いて、鹿肩肉のパテに蕗や蕨など山菜が添えられた前菜、お隣の西粟倉で生まれた平飼い卵を使用したサバイヨンソースでいただく旬のこごみに鹿節がはらり。魚のメインは文字通り春の魚と書く鰆とタラの芽のフリットをブールブランソースで。お肉のメインは智頭の山を駆けまわったであろう鹿モモ肉ローストをフォンドジビエで。添えられたのは、地元の野菜にサツマイモのピュレ。春の山里を宝探しのように歩き出会う山菜や、厳しい冬を越した命の力強さを感じる鹿、顔の見える農家の育てた野菜たち。
テーブルの上にやってくる1枚1枚のお皿に描かれた料理が、物語を持って私の中に入ってくる感覚は、この土地に根差したシェフの時間の重なりも感じられました。コースの最後には、焼きたてのフィナンシェに、自家製のアイスクリームが添えられていました。アイスクリームには貴重なクロモジの花が使われていて、口の中に広がる香りに体に春が満ちていく感覚に、大満足のおまかせコースでした。


手探りながらも鹿肉をメインに使い続け、自分の感覚を大切に今のスタイルに辿り着いたシェフ。その料理の礎には、共に歩んでいるパートナーの恵子さんの存在が大きいそうです。以前は安定した運営や経営をするために仕入れていた食材もあったそうです。しかし、恵子さんは自然の営みを大切にした食材に強く惹かれていました。その考えに触れていく中で、紆余曲折を経て完全予約制のコース料理を提供する形態へと変わっていったそうです。2人でこのレストランを作っていく。その気持ちが今の山のブランの1皿1皿へとつながっています。2人だからこそ得た手づから生み出す喜びと、素材との出会いを本当に楽しんでいることが伝わりました。
また、良いナチュラルワインに出会えたことで、新しい料理の扉が開かれるようでした。全体を通して、自然の色合いを尊重した優しい色彩と、気持ちのいいサービス。季節の度に訪れたい、そんなお店です。


さて、智頭町ではもう1つご紹介したい場所があります。民藝の考え方を基本に、素朴で飾らない日用の美を革を素材に提案する「lore + needles(ロー・アンド・ニードルズ)」さんです。山のブランさんからは車で約5分ほどの場所にあります。小さな集落の中で自宅にある蔵を改装した工房です。工房では作業場に製品も並んでいてその場で購入することもできますが、事前予約の上、訪ねてみてください。


やあ、やあ、と工房に続く庭へ踏み入れると、大きな軍鶏のピイちゃんとシバ犬のふくちゃんが、さっとこちらを振り向きます。lore + needlesを主催する濱口さんが、そんな2匹をなだめながら優しく迎えてくれました。2018年に智頭町に移住された濱口さんが、この小さな集落を囲む大自然や、地域で伝承される暮らしごとを楽しんでいる雰囲気が、家の佇まいからも気持ちよく伝わってきます。


lore + needlesが作る革製品は、機能美や丈夫さを兼ね備えたシンプルなデザインが特徴です。また職人が手仕事で作った製品が使い込まれていく中でより美しく変化していく用の美や民藝の考えを大切にしています。メインで使用している牛革のほか、鹿革のものもあります。革には血筋といって、血管の跡が残っています。血が通った生き物であったことや、生前のキズからどんな性格の牛だったんだろう、この傷はかゆいところをこすりつけていたんだろうか。そんなことを考えながら丁寧に扱われる革たちは端材もくまなく使われていきます。名刺入れ、お財布、カバン、キーケースなど私たちの手に触れることで新しい表情を得ていく時間は、改めて命とともにあるのだと気づかせてくれる品々です。


私は自分の名刺入れや「泊まれるギャラリーはち」のキーケースとして、lore + needlesの製品を愛用しています。いずれも着色のないヌメ革ですが、濱口さんから庭で柿渋の作業が始まるんですよ、とその工程などを聞いていると、見えないところに何層もの手間や想いが重なっていることに、改めて手のひらで物を触ることの意味を考える時間になりました。lore + needlesはオンラインショップや、セレクトショップなどで購入が可能ですが、ぜひ実物をご覧になっていただきたいと思います。



全4回にわたって、鳥取県若桜町で暮らす私のおすすめする「小さな旅」をお届けしました。 若桜町に移住する8年前、私はイラストレーターとしてアーティストインレジデンスで招聘され若桜町に滞在しました。一晩に50cmもの雪が降る2月のことです。水道管が凍ったり、道がツルツルで滑って歩けなかったり、1歳になる前の子どもを背負いながらなんて場所に来てしまったんだと思いました。しかし、その思いを吹き飛ばす自然の美しさが、次から次へと目に飛び込んできた光景は、今でも忘れられません。
「ギャラリーカフェふく」や「泊まれるギャラリーはち」で皆様をお迎えする場所を営みながら、これから先は私自身の作品制作に取り組む時間も増やしていきたいと思っています。ひとりでも多くの人に鳥取の山間部の魅力をお伝えできたら嬉しいなと思っています。いつか皆様とお会いできますように。鳥取でお待ちしていますね。

 

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「山のブラン」
鳥取県八頭郡智頭町埴師655
TEL:0858-71-0332
営業日:金・土・日(完全予約制)
ランチ:11:00 / 12:30(二部制)ディナー|18:30
Instagram:@brun.de.la.montagne

 

「lore + needles(ロー・アンド・ニードルズ)」
鳥取県八頭郡智頭町新見180
来店の際は下記HP問い合わせより要予約
https://store.loreandneedles.com/
Instagram:@loreandneedles

 
 MAP:D・E

日本、〒680-0701 鳥取県八頭郡若桜町若桜396

日本、〒680-0728 鳥取県八頭郡若桜町舂米635−219

日本、〒680-0701 鳥取県八頭郡若桜町若桜379

日本、〒689-1433 鳥取県八頭郡智頭町埴師655

日本、〒689-1463 鳥取県八頭郡智頭町新見180

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