土が息づくかたち　作陶家・故金あかりさんの世界

〜「tömpa（東巴 / とんぱ）」より　vol.28〜

今日のひとしなでは、岐阜・多治見を拠点に作陶する故金あかりさんについて書こうと思います。故金さんの器には、土が本来持つ素朴なあたたかさと、奥底に眠る静かな力がそのまま息づいています。表面には、風にさらされ、長い時間を歩いてきたような独特の肌理があります。古い風景を思い起こさせながらも、どこか新しく、いま生まれたばかりの生命力も宿している。そんな二つの気配が一緒になり、ひとつの器として立ち上がっているのだと感じました。

故金さんは1995年岐阜県生まれ。武蔵野美術大学で工芸工業デザインを学び、多治見市陶磁器意匠研究所ラボコースを修了したのち、多治見で創作の日々を積み重ねています。これまで国内外で精力的に作品を発表し、ここ数年は展示の予定が途切れることのないほど注目されている作家でもあります。

そんな活躍ぶりとは裏腹に、故金さんの作品からはどこか静けさが漂います。必要以上に語りすぎない、けれど凛とした存在感が確かにある。その落ち着いた佇まいは、ご本人の雰囲気にもよく似ています。話していると、まっすぐに通った芯の強さと、おおらかな優しさ、許容範囲の広さに驚かされます。大きく構え、ゆったりと物事を受け止めるその姿勢が、自然と作品にも滲み出ているようです。

故金さんの器の前に立つと、不思議と心が静まります。それは形や技法の巧みさだけでは説明できず、ご本人が持つ穏やかな強さと、物事を大きく包み込むようなおおらかさが、そのまま作品の空気へと変わっているからなのだと思います。

制作の原点は、故金さんが出会った、ある古い壺だといいます。そこに宿っていた土のあたたかさやおおらかさ、内側から静かに湧き上がるような力強さ、そして長い年月を経て生まれた繊細な土肌。その記憶のようなものに、強く心を動かされたのだそうです。

手びねりのやわらかな揺らぎや、焼成の過程で自然に生まれる歪みを、故金さんは“偶然のトラブル”としてではなく、美しい変化として受け入れます。その姿勢には、自然物に向ける敬意が静かににじんでいます。形を決めすぎず、曖昧にもせず、自然な線を探り続ける。その作風が、多くの人を惹きつける理由のひとつなのだと思います。

どの作品にも、そっと空気を整えるような静かな力があります。食卓でも、お茶の席でも、声高に主張するのではなく、まわりにあるものを受け入れながら、ゆるやかに場をまとめてくれる存在です。その佇まいは、フランスのアンティークの器やカトラリー、古いガラスや真鍮の道具とも自然に調和します。

2024年2月には、弊店での個展に合わせ「韓国料理と韓国茶の会」を開催しました。直火耐熱の鍋を使い、その場で仕上げたお料理をお出しするという特別な試みです。韓国から4名のお客様が来日してくださったほか、全国各地からも故金さんの器をきっかけに多くの方が集まり、あたたかい時間が生まれました。

料理を担当してくださったのは、韓国在住の人気料理家・Yonaさん。韓国でも手に入りにくい食材や季節の恵みを巧みに組み合わせ、故金さんの器の中で、湯気や熱までも料理の一部として立ち上がらせるような美しい一皿を次々に生み出してくれました。
そして、お茶の会を導いてくださったのは、同じく韓国在住の人気茶人・内田良子さん。良子さんの美しい所作に導かれるように、お茶と器、そして人の気配がひとつの景色へと静かに溶け合っていく。あの空間は、料理とお茶と器が響き合いながら生まれた、忘れがたい時間でした。

自然物や古物へのまなざしが深く反映された器たち。色は、土や山、植物、空。あるいは日常の中でふと目にした何気ない色を重ね合わせるように考え、形はあくまで自然の線。その姿勢は、見る人や使う人に「余白」を残し、生活の中でじわりと存在感を増していく不思議な魅力があります。

また次回も、故金さんと一緒に、お料理やお茶などのコラボ企画をゆっくりと準備しています。どんな景色が生まれるのか、私たち自身も楽しみにしているところです。
そして、故金さんの器は、現在東巴で準備しているカフェでも使用する予定です。日常のなかでふと触れる、さりげない喜びとして感じていただけたら嬉しいです。どうぞ楽しみにお待ちくださいね。

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