【松本・大人旅】人生の糧となる本を届けてくれる「boccabooks」
城下町として400年の歴史を誇る長野県松本市。国宝松本城をはじめ、松本美術館や上高地など歴史文化自然を楽しめるスポットが数多くあります。
松本というと毎年5月末に開催される「クラフトフェアまつもと」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。日本のクラフトフェアの先駆けとして1985年に始まり、現在では全国から多くの人が集まる大人気イベントとなっています。
2013年に喫茶併設の本屋「栞日」、2022年に継承した百年以上の歴史を誇る銭湯「菊の湯」を営む菊地さんに松本市のおすすめのお店を教えていただきました。是非次の旅の計画を立ててみてくださいね。
こんにちは。長野県松本市で、喫茶併設の書店「栞日」と銭湯「菊の湯」を営んでいる、菊地徹です。連載最終回の4回目は、前回ご紹介した〈山山食堂〉でお腹を満たしたあと、その足で向かいたい最寄りの本屋にご案内します。

連載初回でお伝えしたとおり、私の出身は静岡県静岡市で、松本市には大学卒業後、就職を機に転入しました。松本に来て、国宝松本城に出かけたとき、その道中の大名町通りで、目を奪われ、思わず立ち止まり、しげしげと眺めてしまった建物がありました。
それが、古書店〈青翰堂書店〉。目を奪われた理由は、その屋根が松本城を模した天守の形をしていたから。斬新なことを考えるひともいるものだ、とそのときはただ驚くに留まってしまいましたが、あとからそれは、昭和25年から30年にかけて行われた、松本城の全面解体工事(いわゆる「昭和の大修理」)の際、天守の姿が幕に覆われて見れなくなったことを寂しく思った初代店主が自らの店舗を建て替えて、天守の屋根を立ち上がらせたものだった、という背景を知り、松本城に向かう目抜通りで個店を営む商店主の心意気に、ぐっと胸を掴まれました。

今回ご案内する本屋は、その〈青翰堂書店〉が実家の五十嵐ちなつさんが、約40年ぶりに松本に戻って、この夏(2026年7月)、女鳥羽川沿いに開業した〈boccabooks(ボッカブックス)〉。〈青翰堂書店〉は、2020年3月に約70年の歴史に幕を下ろし、同年6月以降は和生活雑貨店がテナント入居していますが、本屋としてのスピリットがこうして確かに受け継がれているさまに触れると、本屋好きとしては嬉しくなって、頬が緩んでしまいます。
屋号に含まれる「bocca」は、山小屋などに食料や荷を背負って運ぶ職人「歩荷(ぼっか)」から。人生の糧となる本を届け手渡す、という五十嵐さんの本屋としての志を表明する屋号です。看板には、五十嵐さんが松本に戻る手前、パートナーの仕事の関係で約30年にわたって暮らした山形県山形市で出会った日本画家、古田和子さんの描いた、荷籠を背負う山羊の姿。私はかつて、〈青翰堂書店〉で串田孫一や辻まこと、尾崎喜八らの山の本を買い求めたこと、そして、「青翰」が「若い山鳩の羽」を意味する言葉であったことを思い出し、再び頬が緩みます。

〈boccabooks〉は、古本を主体としつつ新刊も扱うスタイルの本屋。西側の壁一面にはテーマごとに古本が並び、入口すぐの東側壁面とフロアのふたつの平台には選書された新刊が並びます。古本は、いまは五十嵐さんの蔵書から選ばれ並べられているものが大半を占めますが、今後、買取等を進めるなかで、少しずつこの地域に暮らすひとたちの色味も加わって、やがて自然と馴染み、〈boccabooks〉独自の本棚に育っていくイメージを持っているようで、これからの変化がたのしみです。

店舗の奥にはギャラリーも併設されていて、私が訪ねたこの日は、オープン記念の企画展として、店のロゴの山羊も描いた古田さんの個展『声の主』を開催中でした。こちらも、この先、〈boccabooks〉の企画展を通じて、どのような作家や作品が、この街に紹介されていくことになるのか、たのしみです。

五十嵐さんは、大学進学で松本を離れ上京し、山形市に移ったあとも、現地の一箱古本市の運営に携わるなど、本との関わりを絶やすことはなかったそうです。故郷の「まつもと一箱古本市」にも、2015年の初開催時に出店。当時の運営チームや出店メンバーとは、2023年春に今町通りにある芸大美大予備校、マツモトアートセンターで始まった企画「マツモトブックセンター」や、2024年、2025年に六九通り南側の女鳥羽川沿いでの「六九古本市」に出店した際に再会し、本屋仲間としての絆を深めていきます。いわば「同期」のような同志たちが、次々に松本市街に実店舗を構えていったことも、五十嵐さんの背中を押したと言います。

2020年のコロナ禍にオンライン読書会に参加し始めた頃から、そのうち〈青翰堂書店〉のあった故郷、松本に戻って、自分の本屋を開いてみたい、と真剣に考え始めるようになった、という五十嵐さん。「オープンしたばかりですが、日々さまざまな方が訪ねていらして、ある方がある方をご存知だったり、その方がまた別の方をご存知だったり、早くもこのあたりのひととひとのつながりを感じ始めています」と笑顔で語り、実店舗を構えることの醍醐味を、味わい始めている様子でした。

〈boccabooks〉の南を向いた大きな窓からは、女鳥羽川とその川沿いの道を行き交うひとや自転車、車のようすがよく見えます。季節の移ろいにあわせて、変わる川の景色とともに、人生の糧となる本を届けて渡す〈boccabooks〉の営みが続き、そしてきっと広がっていくことを思い、再び頬を緩めながら、新しくこの街に加わった心地よい空間をあとにしました。

以上、4回に渡り、長野県松本市の市街を案内させていただきました。今回は、限られた回数のなかで、市街東側のみのご案内に留まりましたが、国宝松本城・旧開智学校の界隈や、駅前周辺にも魅力的なスポットや店舗が点在しています。歩いて回ることのできる範囲内に、訪ねたい場所や会いたいひとが多く集まっている、この密度の高さが、松本市街の魅力です。
そして、さらに東に足を延ばせば、松本民芸館や浅間温泉、西に足を延ばせば、白骨温泉や上高地といった、文化や自然を堪能できます。かつ、どのエリアもスポットも、季節ごとに表情が変わり、そのどれもが魅力的です。ぜひ、一度と言わず、何度でも、信州松本におでかけください。きっと、そのときどきで、よき旅のひとときが待っています。

長野県松本市大手5-3-6
営業時間:9:30-18:30
定休日:火曜日・水曜日・木曜日
Instagram:@boccabooks
MAP:D
日本、〒390-0815 長野県松本市深志3丁目7−8
日本、〒390-0874 長野県松本市大手5丁目4−25 list
日本、〒390-0874 長野県松本市大手5丁目3−6
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