【花と暮らしの12か月】手放すことで、見えてきた風景

JALDIN BLANCの庭から ~花と暮らしの12か月~
2026.11.01


栃木・那須に暮らすクリエイターRARI YOSHIOさんによるマンスリー連載「JALDIN BLANCの庭から ~花と暮らしの12か月~」では、新刊『心をととのえる処方箋——12か月のFlower days』をきっかけに、日々の花と暮らしのことを新たに書き下ろしていただいています。


 


今年も残すところ、あと2か月になりました。
振り返ってみると、2026年は、私の人生の中でもっとも大きな変化のあった一年だったように思います。
長年暮らした家を離れ、新しい土地で、初めての一人暮らしを始めました。住まいも、暮らしの習慣も、人との関わり方も、大きく変わりました。
そして何より変わったのは、自分自身の心のあり方だったように感じています。



自分自身が本当に心から
やすらげる場所とは?



以前の家には、心を寄せた庭がありました。
季節ごとに表情を変える木々や草花。苔の上に落ちる木漏れ日。風に揺れる枝や、雨上がりに輝く葉の雫。
庭で過ごす時間は、私にとってかけがえのないものでした。その庭を離れることなど、考えたこともありませんでした。
長い年月をかけて育まれてきた風景には、たくさんの思い出が重なっています。そこにしかない光があり、そこにしかない季節の移ろいがありました。

けれど、どれほど美しい場所であっても、そこに暮らす自分自身が、心からやすらげているとは限らないのですね。私は長い間、大切なものを守ろうとするあまり、自分の気持ちを後回しにしてきたのかもしれません。

 


     
心が少しずつ軽くなる実感


何かを手放すことは、失うことだと思っていました。これまで積み重ねてきた時間も、大切にしてきた風景も、すべてなくなってしまうような気がしていたのです。
でも、勇気を出して手を放してみると、思いがけないことが起こりました。心が、少しずつ軽くなっていったのです。

 



今、大好きな家との日々


今、私が暮らしているのは、那須の里山の風景が残る場所。古い家を少しずつリノベーションしながら、自分らしい暮らしをつくっています。手を入れなければならないところも、まだまだたくさんあります。それでも、この家が私は大好きです。

朝、目覚めて窓を開ける。
好きな器を選んで朝食を用意する。
花を生け、部屋を片づけ、時には何もせずに光の移ろいを眺める。
そんな、ごく当たり前のことが、今はとても楽しいのです。

自分の時間を、自分の心に従って使えること。
好きなときにお茶を飲み、好きな音楽を聴き、思いついたことを形にできること。
それが、こんなにも豊かなことだったのかと、日々感じています。



気持ちを手放し、自由になれた。
タンポポの綿毛のように



そして、自然との関わり方にも変化が生まれました。以前は、庭というひとつの場所に、自然の美しさを見い出していました。季節の植物を育て、庭の風景を整え、その小さな世界に心を寄せていたのです。

今は、庭という境界がなくなったように感じています。道端に咲く草花も、田んぼの向こうに沈む夕日も、山から流れてくる風も、すべてが私の暮らしの一部になりました。

所有しなくても、美しいものは美しい。自分のものにしなくても、自然と深く関わることはできる。むしろ、何かを自分のものにしようとする気持ちを手放したとき、世界は以前よりもずっと広く、自由になったように思います。

考えてみれば、自然は何ひとつ、同じ姿のままではありません。芽吹いた葉は茂り、やがて色づき、土へと還っていきます。花は咲き、散り、種を残して、また次の季節へと命をつないでいきます。

私が長年作品にしてきたタンポポの綿毛も、そうでした。風に乗って飛んでいく綿毛は、今いる場所を離れることで、新しい命の可能性を広げていきます。





沖縄での展覧会へ


この秋、沖縄の友人のギャラリーで、出版記念の展示をする機会をいただきました。2024年11月に開催した個展以来、二度目の展示です。前回の展示タイトルは、『jardin de lumière ― 光の庭』。そのとき、案内状にこんな言葉を綴っていました。

庭は大地への入り口
植物たちは
地球という生命エネルギーを
そのまま感じ生きています
素足で大地に繋がってみると
私たちも
地球の一部だとわかります
すべては
ひとつの美しい光

すっかり忘れていた言葉でしたが、今回あらためて読み返して、驚きました。そこに書かれていたことが、今年出版した本『心をととのえる処方箋』で伝えたかったことと、重なっていたからです。

あのとき、庭から受け取った感覚が、時間をかけて言葉となり、一冊の本になった。そして今、その本を携えて、再び沖縄を訪れることになりました。なんとも不思議な巡り合わせです。



庭は大地への入り口


2年前には、まさか自分があの庭を離れることになるとは、想像もしていませんでした。でも今なら、あのとき書いた「庭は大地への入り口」という言葉の意味が、少し違って感じられます。

庭は、自然とつながることを教えてくれた場所。そして今は、その庭を離れたことで、世界のどこにいても、大地とつながっているのだと思えるようになりました。



手放し、満たされる

 


今年は、たくさんの方の優しさにも支えられました。新しい暮らしを始めるために力を貸してくれた人。遠くから会いに来てくれた人。言葉にしなくても、そっと気にかけてくれた人。

手放すことで孤独になるのではなく、むしろ人とのつながりの温かさを、以前より深く感じるようになりました。そして、不思議なことに、何かを失ったはずなのに、今の私はとても満たされています。

もちろん、手放したものへの悲しみが、すべて消えたわけではありません。懐かしい風景を思い出して、胸がいっぱいになることもあります。でも、その悲しみさえも、自分が心から何かを愛した証なのだと思えるようになりました。



大切なのは、どんな心で
世界を見つめているか


人生は、いつからでも変えることができる。私はそんなことを実感しています。
これから先、どんな出来事が待っているのかはわかりません。でも、もう何かを握りしめている必要はないのだと思います。季節が巡るように、自然が変化を受け入れていくように、私もまた、変わり続けていきたい。

大切なのは、何を持っているかではなく、どんな心で世界を見つめているか。

今日も窓から差し込む光を眺めながら、そんなことを考えています。手放した先には、何もないのではなく、まだ見たことのない、美しい風景が広がっていました。



JARDIN BLANC

栃木県那須郡那須町高久甲5836-9
※年内の営業は終了しました。来年の営業日はインスタグラム(@rariyoshio)でご確認ください。



「JALDIN BLANCの庭から

~花と暮らしの12か月~」は
月の初めの日曜にお届けする連載です

日々の感覚を整えるための、ささやかなヒントとしての「おしゃれ」や「暮らし」を、那須の四季とともにお届け。ゆっくり一年をかけて、毎月更新していきます。

←連載の記事はこちらから


 

  

最新刊
『心をととのえる処方箋——12か月のFlower days』

12か月の草花の移ろいとともに、星のリズムや大地とつながる「アーシング」など、現代人が忘れがちな自然との調和を綴ったライフスタイル・エッセイ。著者自らが手がけた写真、イラスト、デザイン、そして言葉が響き合い、読むだけで深い安らぎをもたらす「心の処方箋」となる一冊です。

 

著:RARI YOSHIO
定価:1870円

Amazon / 楽天ブックス

 



【展覧会情報】

RARI YOSHIO New book exhibition

会期|11月1日(日)~11月30日(月)

時間|13:00〜18:00
(火・水曜定休。ただし11月3日はオープン)
*RARIさんの在廊日はInstagram(@rariyoshio、@renemia_life)でご確認ください。

会場|RENEMIA gallery shop & café
沖縄県那覇市牧志2-7-15
Tel 098-866-2501 
http://www.renemia.com/ 
Instagram:@renemia_life

 

【お話し会】
RARIさんのこれまでのことこれからのこと。住まい、お店、お庭、植物、花..……那須での暮らしを通して「こころをととのえる」ヒントを見つけるひと時をご一緒に。
日程|2026年11月3日(火・祝)

時間|10:00~11:30 
定員|12名
参加費|2,500円(税込)

*那須から届いたお菓子&お茶とRARIさんからのおみやげ付き。
*お申込みはRENEMIA のInstagram(@renemia_life)からDMにて。フルネームをご記載ください。

Profile

RARI YOSHIO

アートデザインクリエイターとして、イラストや雑貨制作、ショッププランニングなど「JARDIN BLANC」の屋号で幅広く活動。2007年、栃木・那須に移住し、庭のある暮らしを通して、自然と人の感覚を結び直す表現を行っている。デザイン、イラストレーション、文章を横断しながら、日々の中にある小さな美しさや、心と身体のリズムを整える視点を大切にしてきた。四季の移ろいに寄り添いながら、自然とともにある暮らしの在り方や、感覚をひらくためのささやかな工夫を、作品と言葉を通して静かに伝えている。

Instagram:@rariyoshio

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