大事なのは、自分以上になろうとしないこと Vol.1 陶芸家 大谷哲也さん、大谷桃子さん
真っ白なのにどこか温かく、どこにでもありそうなのにここにしかない。
それが大谷哲也さんの作る白い器です。のびやかなバナナの葉。
凛と立つ蓮の花。自然の勢いを宿した桃子さんの器は、
料理と絵がひとつになって、おいしい風景を生み出してくれます。
信楽で、夫婦で器を作り続けるふたり。
「僕らには、そんな突出した才能なんてないんですよ」と飄々と語る哲也さん。
「ふたりとも、ずっと同じような器を、作り続けています。
続けていたら上手になるんですよね」と桃子さん。
どうやら、ふたりが見ている方向は、人気作家になることでも、
有名ギャラリーで個展を開くことでもないよう。
子供の頃は、建築家か車のデザイナーになろうと心に決めていたという哲也さん。
貿易会社に勤めるお父さまの影響で、
幼い頃からナイフとフォークを使って食事をしていたそう。
今、手がける洋食器と和食器の中間にあるような器は、
そんな幼い頃からの食卓の延長線上にあるのかもしれません。
「車のデザイナーにはなれなかったし、
大学卒業後はワーキングホリデーでオーストラリアに行ったり、
ぶらぶらしていました」
帰国して、滋賀県信楽の窯業試験場に就職。
デザイン学科の教師をしながら焼き物の研究を手がけていたそう。
その時の生徒のひとりが桃子さんです。
地元信楽で陶芸家の両親の元で育った桃子さん。
「海外で暮らしたい」と、アメリカに留学。美術史を学んでいたそうです。
「インドネシアにある姉妹校に通っていた時期もありました。
そこで見たのが熱帯の植物です。蓮の花があそこで咲いて、
ここで枯れている。再生エネルギーのすさまじさと、
美しさを肌で感じたんですよね」
帰国後、何をしよう? と考えたとき、
やっぱり手にしたのは両親が作り続けてきた器でした。
そして、あの力強い葉っぱを描いてみたくなったそう。
『暮らしのおへそVol.22』より
text:一田憲子 photo:岡田久仁子
Profile
大谷哲也 大谷桃子
哲也さんは、大学の工芸学部卒業後オーストラリアへ。帰国後滋賀県立信楽窯業試験場勤務を経て2008年に「大谷製陶所」を設立。桃子さんはアメリカのオレゴン州立大学で美術史を学び、在学中インドネシアに留学。帰国後、信楽窯業技術試験場で陶芸を学び、卒業後作陶を始める。3人の娘とともに5人暮らし。
大谷製陶所http://ootanis.com
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