「なにがし」の真鍮の朱肉入れと判子
~ 「組む東京」 vol.12 ~
世界で印鑑登録制度が残っているのは、日本だけということをご存知でしょうか? 中国、韓国、台湾でも、10年ほど前までは残っていたらしいのですが、今も続くのは日本だけなのだそうです。 プライベートプロダクトのブランド「なにがし」で、生活道具のデザインを手がける山崎義樹さんは、かつて自分が独立するときに、使いたいと思う判子や朱肉を見つけることができなかったと言います。
そこで山崎さんは、高級な工芸品でもなく、簡易的な大量生産品でもない、自分が使いたいと感じる判子と朱肉入れを自分でデザインしようと考えました。
まずは練り朱肉を探し、創業100年をこえるメーカー「モリヤマ」の製品と出会います。「モリヤマ」は、自然環境に害のない顔料のみで、鮮やかで耐光性のある練り朱肉の発色を実現しました。鉛、水銀、カドミウムなどの重金属は一切含まれず、クッション材の主原料は、なんと艾(もぐさ)なのだそうです。
私は、黄色味の少ない、より鮮やかな赤色と、蓋を開けたときにふわっと立ち上る墨のような香りがとても気に入っています。専門的な言葉だと思いますが、朱肉入れのことを「肉池(にくち)」と呼ぶのだそうです。それを聞くと、まるで風景のようですね。
この真鍮の鋳肌仕上げが美しい「肉池」は、富山県高岡の「FUTAGAMI」で制作されています。デザインは丸、四角、六角の3種。
仕上げ色は2色で、高岡銅器に伝わる伝統的な技術である、漆の焼き付け仕上げの金ムラと黒ムラ。独立や昇進のお祝いなどで贈り物にされる方も多く、「組む」では全てを常設しています。
蓋を下に敷いたときにも一体になるデザイン。側面から見た時のかすかな傾斜は、デザインとしてのリズムを生み出していますが、機能としても、蓋をあけるときに手がかりになり、開けやすいためです。
最近、山崎さんは、「なにがし」ブランドから印章を発表しました。角印と丸印です。どちらも立てて置けるデザイン。自立・独立・設立する際に手にする判子。「倒れないように」という願いを込めて、使わないときは自立する仕様になっています。
角印は、21mm角と24mm角。丸は直径15mmと18mmで、文字数や用途によって、サイズを選んでいただけるようになっています。最近の版下は、コンピューターで作られるのが一般的ですが、「なにがし」の印影は、一つ一つ手書きで版下を作ります。すべてオーダー制で、納期は最短でも数週間かかりますが、世界に一つの、その人だけのものが出来上がります。近く、「組む」でも受注を始める予定です。
私は、このプロダクトに出会い、判を押す文化の奥深さと楽しさに気づきました。そんな影響を生み出すことも、デザイン活動の一つの重要な要素だと思います。
国内外のものづくり、手工業の交流拠点となる場として、ショップ、ギャラリー、コミュニティ・スペースの機能をもつお店。「今日のひとしな」の執筆は、代表・キュレーターの小沼訓子さん。
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