手加減による造形「tocit(トチエット)」の帽子
~ 「組む東京」 vol.27 ~
この「tocit」の帽子は、一点一点、手の加減を頼りに縫われたものです。型を使わず、5mm幅ほどのテープ状の材料を、渦を巻くように縫い進め、ちょっとひっぱる、ちょっとゆるめることを繰り返し、3次元の立体を形作るのです。例えば、下の写真右の蛇腹のような抑揚は、すべて手加減によって調整されています。
コレクションごとにデザインを変えたハットピンがついていて、花、羽、木の枝など、思い思いのものをさすことができます。取り外して、ブローチとしてもお使いいただけます。
また、全ての作品に帽子をかけるためのリング金具が。かぶったときは後ろ姿のさりげないアクセントになり、壁にかけたときは帽子をインテリアの一部としても楽しんでいただきたいという提案です。
「tocit」は、2013年にスタートした帽子のブランドです。約70年前、1949年に尾道で創業した藤井製帽株式会社。その三代目の垣根千晶さんが、自社で培われた技術を生かし、お兄様とともに、このブランドを立ち上げました。
子供の頃は、仕事場の2階で暮らしていたという千晶さん。日々、帽子を作るミシンの音を子守唄に育ったそうです。そんな環境からか、千晶さんは、幼い頃から洋服のデザインを学びたいと思うようになりました。お父様がファッションを学ぶなら東京がいいと応援してくれたこともあり、文化服装学院で服飾の勉強をします。卒業後は、舞台のコスチュームデザインの仕事をしていましたが、5年ほど経った頃、実家の仕事をしようと決意します。その後、数年を経て、日本の自然素材を使い、熟練の技術を生かした手作りの帽子ブランド「tocit」をスタートさせるのです。
千晶さんの帽子のデザインは、さりげないけれど、独特で、服飾デザインのエッセンスがスパイスのようにきいていると感じます。例えば、この巻きつけるような形の帽子は、かぶるというより、着る帽子という感じ。こちらが今日ご紹介したいひとしなです。
<tocit 5th collection ターバン付き帽子 リネン>
千晶さんはターバンが大好き。でも人によっては、着こなしのハードルが高いと感じるかもしれません。そこで、帽子とターバンを組み合わせたら、装いに取り入れやすくなるのではと、この形をデザインしました。結びめを後ろや横にもっていっていったり、リボンに結んだり、結ばずにたらしたり。様々な着こなしが楽しめます。
<ターバン付き帽子 ネイビー 細コーデュロイ素材であたたかな質感>
<ターバン付き帽子 グレージュ 細コーデュロイ素材 後ろをリボンで結んで>
<ターバン付き帽子 グレージュ 細コーデュロイ素材 結ばずに前に垂らして>
千晶さん曰く、帽子も服の型紙でデザインする発想が根底にあるとのことで、なるほどと思いました。実際、常識的な帽子作りのセオリーでは、考えられないような構造になっているものもあるそうです。
新しい形や技術にチャレンジするときには、現場の職人さん達と、議論や試行錯誤をかさねます。そんな中で、職人さん達が、はじめは製品としての制作が難しいと判断したものも、検討をかさね、最終的には、商品化を実現してきたケースもあると言います。
そのような挑戦は、開発にかかわる全ての人々との強い信頼関係がなければ実行できないことでしょう。また、それが実現できるのは、長い間に研鑽された数多の技術がその背景にあるからに違いないのです。時間をかけて育まれた人々の力が生かされている。だから、「tocit」の帽子には、温かく確かな存在感があるのだと思います。
垣根家では、家族でお酒を飲みながら、何時間でも帽子の話をするのだそうです。なんだかとても幸せな風景で、いつか私もそんな食卓にお邪魔し、どんな思いで帽子を作り続けてきたのか、聞いてみたくてたまらないのです。
「組む」では、現在、コーデュロイのターバンタイプの帽子を販売しています。また、4月頃から秋にかけて、5thコレクションの帽子の常設を予定しています。4thコレクションもストックしていますので、ご要望があればお声かけください。
国内外のものづくり、手工業の交流拠点となる場として、ショップ、ギャラリー、コミュニティ・スペースの機能をもつお店。「今日のひとしな」の執筆は、代表・キュレーターの小沼訓子さん。
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