「彼らは原毛を取りに行く」…おすすめ帖vol.22
『ナチュリラ』本誌でも、季節ごとのリアルクローズとそのおしゃれな着こなし方を提案してくださっている人気セレクトショップ「アナベル」。店主の伊佐さんによる「季節のおすすめ帖」連載コラムです。季節ごとのおすすめの品を月に2回、ご紹介しています。
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photo:川本浩太 text:伊佐洋平 model:伊佐奈々
伊=伊佐 F=FACTORY
伊「すごくいい素材使ってますね。」「日本で生産してるんですか?」
F「はい、足利で自分たちで作ってます。」
伊「へー、ニット工場ですか?」
F「他のブランドの生産は請け負ってないので、工場と言っていいものか。」
伊「自社ブランドのためにニット工場の設備を持ってるんですか?」
F「縫製も染色も自分たちでやってます。」
彼らの商品をはじめて目にしたのは、アパレル向きの新聞社が主催するある合同展示会でのことでした。ニットやその他の布帛商品を見ても、独特な素材や色が印象的でした。
伊「素材は?どこで手配しているんですか?」
F「基本的には自分たちで世界中探しまわって糸や原毛で買ってきます。」
伊「は?自分たちで?誰が?」
F「僕が行きます。ペルー、ベルギー、モンゴルが中心です。」
もうこの時点で「FACTORY(ファクトリー)」の魅力に取りつかれていた。
ブランドの前身は、1970年代にさかのぼる。現社長であるお母さまが中心に切り盛りしていたブティックがあり、当時としては斬新な手法で、生地を海外に買い付けに行っては店の裏の縫製場で服を作り、できたばかりの服を店に出すというやり方で、地元のお客様に愛されていたそうだ。
その手法はさらに進化を遂げ、子供たちに引き継がれることになる。デザイン、パターン、原材料の調達、紡績、撚糸、染色、編み立て、縫製、仕上げ、通常のアパレルが外注する部分もすべて自ら行うことで成り立つこの工場は、見た目にも面白い。ホールガーメント(筒編み)の編み機が数台並んだすぐ横にリンキング(横編みニット特有の縫製)の機械。さらにそのすぐ横には通常縫製のためのミシンが20台ほどずらりと並ぶ。その奥では仕上げが行われている。そして、全てが見渡せる中央手前に社長が座っている。
分業制が当たり前なアパレルの量産工場から比べると、その姿はまるで異なる、大がかりなアトリエのような空気を持っている。
彼らの得意とする素材は、カシミア、ヤク、キャメル、リネン、コットンと多岐に渡るが、中でも15年前から少しずつ現地との距離を縮め、信頼を得て交流するモンゴルの奥地で手に入れるカシミア、ヤク、そしてコビ砂漠のフタコブラクダの毛を使うキャメルは、とりわけ特別な存在だろう。こちらは標高約4000mの高山地帯に生息するカシミアの毛を用いたシンプルなセーター。
バリカンなどを用いると毛を傷めてしまうため、手櫛で丁寧に刈った毛を使用しているという。そして素晴らしいのは、そのルートを開拓するだけでなく、毎年実際の毛を自身の目と手で確かめてから買っているというから驚きだ。こちらは形違いのカシミアです。
ヤクも同じくモンゴルの高山で取れるものを使用しています。カシミアに似た毛質を持つヤクの毛は最近日本でも高価なものとして流通し始めている。こちらは贅沢にもそのヤクを100%使用したアナベル別注のローブカーディガンです。
2年前に「FACTORY(ファクトリー)」で販売されていたものをもう一度復活させていただきました。原毛を染色せずに使用した2色展開で、とてもふっくらと、しっとりとした肌触り。
こちらが濃いほうの色、モカ茶です。お客様に「スペアを持っておきたい」とまで言っていただける逸品です。
そしてこちらがキャメルです。デザインは、記憶が確かなら、2015年の秋冬にリリースされたデザインで、それ以来展示会に登場しなくなったため、こちらもアナベルで別注し続けている形です。
「ロールネックショート丈セーター」という名前が付いたこちらのセーターは、リブがなくワイド幅でショート丈。そして少し袖が長い。アナベルでは猛烈な人気で、ないと困る商品の一つなのです。
こちらはキャメルの原毛の色。つまり、生成です。ふんわりとして最高に温かい。
シャツやブラウスと重ねても素敵に着ていただけるデザインです。写真ではクルーネックのウールのブラウスをインナーに着ています。
原毛の感触を大切にしたいという思いから、漂白をせずに原毛に直接染色を施すのも彼らの大きな特徴といえるでしょう。だから、すべての色で原毛の色を感じるのです。ブラックやネイビーなどの濃色も、どこか少し柔らかい色合いです。
そして素晴らしいのはニットだけではない。某トップメゾンでパターンナーとして十分なキャリアを積んだデザイナーの作るパンツやコートは、年を重ねてもかっこよく着こなせるものがたくさんある。
「FACTORY(ファクトリー)」のニットに同じく「FACTORY(ファクトリー)」のコートを羽織る。
そこに「FACTORY(ファクトリー)」のキャメルのショールを巻き付ける。
1970年代からファッション業界の第一線であり続ける社長をはじめ、彼らの運営する「FACTORY(ファクトリー)」というブランドには、今のアパレル業界がどこかに忘れてきてしまった「自ら手を動かしモノを作る」という昔のアトリエのようなことをとても大切にし、その中で交わされる会話ややり取りの中からこそいいものが生まれると信じているように感じます。だからこそ、より良い原料を求めて世界中を駆け巡り、より高い感性を持続するためにデザイナーは単身パリで活動する。
そういった、とてもシンプルだが困難な活動が「FACTORY(ファクトリー)」を支えている。それが着た人たちにも伝わっているからきっと長く続いているのだと思います。
コート:FACTORY ¥45,000+tax
ヤクローブカーディガン:FACTORY ¥33,000+tax
カシミアセーター:FACTORY ¥29,000+tax
キャメルロールネックショート丈セーター:FACTORY ¥15,000+tax
キャメル大判ストール:FACTORY ¥15,000+tax
*編集部より 伊佐さんスタイリングのシャツの着こなしを現在発売中の『ナチュリラ』2019秋号vol.47で特集していますよ。本誌のほうもぜひご覧になってみてくださいね!
神奈川県横浜市青葉区美しが丘2-20-1美しが丘アレービル104
東急田園都市線たまプラーザ駅から徒歩5分
℡:045-482-4026
営業時間:11:00~20:00 水曜定休
http://www.f6products.com/
https://www.instagram.com/annabelle_104/
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