‟成長”していく器 矢野直人さんのお茶碗

今日のひとしな
2020.05.07

~ 「岡の」より vol.7 ~

茶道を習い始めてからかれこれ5年が経ちました。とはいえ全く進歩が見られず、先生の優しさに甘えに甘え、毎回手順をすっ飛ばし、丁寧にご指導頂きながら「なるほどー」などと言っています。

努力の足りない私ですが、通うことは楽しみにしています。先生のご自宅の可憐な草花。先代から咲き続ける椿、百日紅。季節ごとに咲く花々がとても美しいのです。そして必ず美味しいスープや旬の果物を出してくださいます。茶道の所作が全く身につかない私ですが、先生のおもてなしの細やかさや、選ぶ言葉の美しさなどは少しずつ気が付くようになりました。

そのような繊細な、研ぎ澄まされた茶室の中で、主役ともなりうる存在が、お茶碗。今日は大分県・唐津の名護屋城跡の近く、自然と歴史あふれる場所で作陶される矢野直人さんのお茶碗をご紹介します。
 

乳濁した釉薬の色が美しい斑(まだら)唐津。斑点が器の個性と面白みを引き出しています。
 
唐津の若手として注目されている矢野さん。初めて個展に伺った時、矢野さんの作品は、癖のない素直さが印象的でした。多くの若手陶芸家は、器を見るだけで作り手の顔が浮かぶような、作家の独自の色や形を出すことにエネルギーを注いでいるのに、この無欲な器はなんなのだろう。

高台の部分や素地の色が出ているところには、作家の個性を完全に消し去った、無垢な表情が特に出ているように感じます。ここでグッと力を入れたら、勢いのある強いラインが出るのに。個性的な美しさが出ることがわかっているのに、その手前で意識的に手を止めているように感じるのです。
 

 
土色が美しい唐津茶碗。女性の手におさまる大きさで丸みのある形。素直な土色と、乳白色の釉薬の流れ。
 
 
矢野さんのお母さまはお茶の先生をされていらっしゃるとのこと。世代を越えて使い続けられるお茶のお道具。それを身近に触れてきているからこそ、お茶碗を表面だけでなぞるのではなく、過去と現在、未来へつながる時間軸の中で捉えることができるのだと思います。

矢野さんのお茶碗には「自分はここまで」という意思を感じます。その後は使う人の手に委ね、器が日々使われることで成長していく余地を作っているように思います。
触りのよさや使い込むことで風合いを増す肌の色。使ってみてわかる唐津の美を、矢野さんは生活の中で感じ育ってきたのだと思います。
 
 
茶室にあるものには全て意味があり、お茶碗をくるくるとまわす所作ひとつにも、相手への気遣いと思いやりがあるのです。強さが出ないよう、自分の意図が邪魔にならないよう、美しさのみが残るよう。それが、矢野さんの創作の姿勢なのだと思うのです。

お茶碗を手に包み込んだ時、そこには手の強弱さえ残さないような、矢野さんの自分を消し去ってでも作りたい、求めるものの高さに初めて気づかされます。


矢野さんとの会話の中で何度も出てきた「唐津が好き」「よい唐津が残ればいい」という言葉。朝鮮から渡ってきた陶工たちの、今も残る美しい器。400年前の古唐津に対する憧れ。そしてその時代の陶工たちへの共感と畏敬の気持ち。そこに矢野さんの創作のエネルギーの源があり、矢野さんの謙虚さ、素直な人柄と共鳴して、このような器が生まれるのだと思います。
 
世代を越えて残る器。
 
誰かの手から手へとこの先100年先へと残る器。矢野さんの、そして400年前の陶工の、美の意識がこの先も誰かに届けばいいなと願っています。
 

作品どちらにもお箱がつきます。
斑(まだら)唐津 径約13.5センチ 高さ約7.6センチ ¥77,000 (税込)
唐津(茶)径約12.5センチ 高さ約7.4センチ ¥77,000(税込)
 
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