伝統と新しい物づくり「松野屋」のあけびかご
今日のひとしな
2020.05.24
~ 「岡の」より vol.24 ~
あけびの実を食べたことはあるでしょうか?
秋になると、どこからともなく「こういうの好きでしょ」と一つか二つ友人から頂くこの実。種がいっぱいで、指で取り除くのも大変なので、口に含んでプププと種だけ飛ばして食べています。鮮やかな紫の大きな実。食べる前にテーブルに置いてその姿も楽しみたいもの。葉っぱもついていたら尚美しく、その丸みのある性格のよさそうな形と色をうっとりと眺めます。山里に多く見られるつる植物ですが、時々観賞用にお庭に植えている方もいらっしゃいます。野趣あふれる姿に惚れ惚れとしてしまいます。
本日ご紹介するのは、「松野屋」のあけびのかご。
おしゃれな、いつも素敵なワンピースを着ている友人があけびの籠を持ち歩いています。私は今まで何度も同じことを聞いていました。「取手が取れちゃったりしない?」と。友人はよい人なので、毎度の質問に対して「けっこう、丈夫だよ」と答えてくれます。もう何年も使っているところをみると、私が思っているよりも本当に丈夫なようです。
「松野屋」のあけびかごは青森の弘前で作られています。日本の工芸や民芸の多くは、農家の方が農閑期の手仕事で生まれたものが多いと思いますが、弘前でも、かつてはりんご農家の方が仕事で使うかごや、暮らしに役立つものなど、あらゆるものをあけびで作っていたのだとか。
編むという技術は日本中で様々あり、縄文時代にも人はつるを編んで、暮らしに必要なもの、豊かにするものを作っていました。弘前には弘前の風土があり、文化があり、編み方があるのだと想像します。かごの顔を決める編み方は現在30種類以上あるのだとか。
弘前のあけびのつるは長いもので5メートルを超えるものもあります。地方に当たり前にあった様々な手仕事は高齢化と共に失われていくばかりですが、弘前ではよい素材があり、よい職人さんが技術を受け継いでしっかりと丈夫に作っていたから、今もこうして私たちはこのあけびのかごを目にすることが出来るのでしょう。
そして、更新されていくデザイン。姿かたちのよさのみならず、編み方もバッグの顔を作る大事なポイントです。
(取手がかごの一部となってしっかりと編み込まれています。)
弘前のかご職人さんたちの確かな技術。そして新しい物づくりへの挑戦。その両方があるからこそ、弘前のあけびかごは現代のライフスタイルにも変わらず求められ続けているのでしょう。シンプルで丈夫で長持ちなだけなら、頑丈な工業製品に負けてしまうでしょう。それだけの理由で人は身に付けるものを選びません。
あけびのかごがこうして、時を越えて人気な理由はなんなのでしょうか。
同じかごでも少しずつ表情が違う。同じ素材でも少しずつ節のある部分が違う。
採取する年によって、色や太さなどの違いだってあるはずです。素材が自然のものである限り、どんなに熟練の編み手でも一つとして同じものは生まれないのです。
エコライフやらサステナブルやら、言葉が勝手に歩いているようで私はなかなか意味をつかまえきれないのですが、「そのまんま木のつる」の素材がこうも目の前に可愛らしい姿をしていると、それだけで撫でてあげたい愛情に近い気持ちと、世の流行やコマーシャル的な言葉とは遠い場所にいるような堂々とした存在感に憧れに近い気持ちを抱いてしまうのです。
おしゃれな友人が持っているあけびかご。このあけびかごを長年、当たり前に使っている彼女そのものが私にとっても憧れなのです。夏だけでなく、冬のコートにもこのバッグを落ち着いた感じに合わせているのが「つるのかごは夏だけ」という、なんとなく世の中的に人が持っているイメージを軽々と越えていて、それも素敵に思うのでした。
魅力をもう一つ。あけびかごや葡萄づるは木のお皿と同じく、使うほどに艶が出てきます。自分で育ててあげるような感じ。気を付けるポイントとしては、木の器と同じく湿気にだけは気をつけて。濡れたらよく拭いて乾かしてあげること。日焼けをしてしまうので、できれば直射日光の当たらない風通しのよいところに置き場所を作ってあげるといいと思います。
長年同じ作家さんのくるみの木の器を扱ってきましたが、それも年月と共に少しずつ色を変え、徐々に飴色に。自然の一部と少しだけ関わり、経年変化をしていく、自然の当たり前の姿に触れる喜び。時間と共に美しさの増す姿。そんなあけびのかごを、私もこれから育てていきます。
あけび織編手提げかご
約W380×D125×H220mm(持ち手含まず)/持ち手の高さ140mm 29,700円(税込)
あけびグニ手角型2本手かご
約330×D140×H160mm(持ち手含まず)/持ち手の高さ160mm 23,100円(税込)
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