【特集】アニメーション監督・堤 大介さんspecialインタビュー vol.2 アカデミー賞ノミネート作品「ダム・キーパー」のスピンオフ新作
トンコハウスの新作アニメーション
この夏、Huluで配信予定!「丘の上のダム・キーパー」
2015年の米国アカデミー賞・最終ノミネート作品となったアニメーション「ダム・キーパー」。ピクサーから独立した堤 大介さんとロバート・コンドウさんが手掛けたこちらの作品をベースに、メインアニメーターとして加わっていたエリック・オーさんが今度は監督となって制作中のスピンオフ新作が「丘の上のダム・キーパー」です。
今年の夏の公開を前に、総監督である堤 大介さんに、本web連載「“つくる人”を尋ねて」の特別編として、宮城県石巻市で開催中の展示から新作「丘の上のダム・キーパー」のこと、5歳の息子さんのパパでもある堤さんのプライベートまで、とっておきのお話を伺っています!
photo:成田由香利 text:大塚美夏
暮らしとおしゃれ編集室(以下、編):まずは「ダム・キーパー」のお話から。「ダム・キーパー」は、8時間ごとにダムのネジを巻くことで大気汚染から街を守るブタくんのお話で、作品の中には環境汚染のほかにもブタくんが通う学校という小さなコミュニティでの人間(?)関係など、私たちも避けて通れないさまざまな問題が含まれています。 堤さんはどういう気持ちでこの作品をつくられたのでしょうか?
堤さん:ロバートとピクサーを出たとき、この世界最高の仕事を辞めた理由を常に考えようと話しました。僕たちのスタジオ、トンコハウスでは「なぜ、これをやるのか?」ということを大事にしています。 作品の中にもその「なぜ?」はあって、自分たちが疑問に思っていることを投影しています。「こうであったらいいな」と思う正解は主人公が示すこともあるのですが、もちろん本当の正解はなくて、観てくれた人それぞれが自分なりの正解を探してくれたらと。
編:なにをどう感じるかは映画の面白さ、醍醐味でもありますよね。
堤さん:「ダム・キーパー」をサンフランシスコの小学校で上映したとき、観終わったあとに子どもたちの中でディスカッションが生まれたんですね。それも大人が「今の映画について話し合いましょう」と誘導したわけではなく、勝手に自然に。作品に登場したブタくんやキツネくんのキャラクターや気持ち、自分たちが感じたことや体験談など話がどんどん膨らんで意見をぶつけ合う。それを目の当たりにしたときは本当に嬉しかったし、はっきりとかたちのあるものではないけれど、僕たちが映画を作った「なぜ」が少しだけ見えた気がしたんです。
編:その「ダム・キーパー」でメインアニメーターをされていたのが、新作の監督となったエリック・オーさん。
堤さん:そうです。「丘の上のダム・キーパー」では僕とロバートは総監督をしていますが、基本は完全にエリックに託していて、彼の気持ちや表現を優先して作ってもらっています。ブタくんやキツネくんのキャラクターはそのままなんですが、年齢は「ダム・キーパー」よりもう少し幼いくらいの設定で。主人公たちのなにげない日常を1本5分、計10本のシリーズものとして制作しています。
編:1本5分! それが10本。。どんなものか、まったく想像がつかないんですが……。お話としてはつながっているのでしょうか?
堤さん:話の流れはあるにはありますが、1本ずつ別々に観ても楽しめるようにつくっています。エリックは物語というよりも詩という感覚で作ったんだと思います。
編:ああ! では「ダム・キーパー」(短編18分)が絵本、同時進行で製作中の「ダム・キーパー」の長編(※90分もので20世紀FOXと共同製作中)が小説、そして「丘の上のダム・キーパー」が詩という……。
堤さん:そう、それはピッタリかも。「ダム・キーパー」の対象年齢の下限としては小学校低学年ぐらいだったのですが、「丘の上のダム・キーパー」は幼稚園やもう少し小さい子どもたちでも楽しめると思います。ファンタスティックで不思議なお話ではありますが、主人公が抱えるお父さんへの想いみたいなものが全体を通して見ることができ、大人でも楽しめるのではないかと。
編:今さらではありますが(笑)アニメーション制作の簡単な流れを教えていただけますか?
堤さん:まずはお話(脚本)があって、それをストーリーボードという絵コンテみたいなものに割り振っていきます。アニメーションというのは、一コマ一コマ絵をつけていくので、その作業が一番時間がかかりますね。
編:パラパラ漫画みたいなものなんですよね。たとえば、これぐらいの時間のシーンに何枚の絵が必要、というのがあるのでしょうか?
堤さん:アメリカの代表的なディスニー映画などでは1秒に24枚ぐらいとは言われてますよね。
編:!!!
堤さん:日本のテレビアニメではだいたい8枚ぐらい。今回の「丘の上のダム・キーパー」ではその中間の12枚くらいです。
編:気が遠くなるようなお話ですね……。堤さんが手掛けられる作品は、ピクサー時代から光の使い方がとても印象的でした。
堤さん:物質は光がないと見えないですよね。それはもう、世の中のものすべて。だからこそ、光をどう使って表現するかはとても重要で、それはひとつの場面だけでなく、登場人物の心の中までも表すんです。ピクサーでは、作品全体の色彩と照明効果を専門にやっていました。
編:その「光と色彩の表現」をご自身の武器に、ピクサーを独立して同僚と2人で立ち上げたトンコハウス。vol.3では、トンコハウスが抱く想いなどについて伺います。
Profile
堤 大介(つつみ・だいすけ)
東京都出身。School of Visual Arts卒業。Lucas Learning、Blue Sky Studioなどで「アイスエイジ」や「ロボッツ」などのコンセプトアートを担当。2007年ピクサー入社。アートディレクターとして「トイ・ストーリー3」や「モンスターズ・ユニバーシティ」などを手がけている。2014年7月ピクサーを退社し、トンコハウスを設立。71人のアーティストが一冊のスケッチブックに絵を描いて、世界中に回したプロジェクト「スケッチトラベル」の発案者でもある。
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