目と肌に心地いい質感のつらなり~「絲室」磯部祥子さん(前編)

”つくる人”を訪ねて
2017.05.10

雑貨からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマンスリー連載、今回はインドの布「カディ」を使った布作品を発表している磯部祥子さんのアトリエにお邪魔しました。

 

photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

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磯部さんの手掛ける作品は、どれも簡潔なかたちをしています。楕円や長方形のクッション、大らかな円形を切り取ったかのようなティーコゼ。使う素材はインドの手紡ぎ・手織りの布「カディ」で、色は白がほとんど。限られた要素しかないのに、その表情はどこか豊かで温かく、つい手をのばしてふれたくなるような「親しみやすさ」「心地よさ」をかもし出しています。

 

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こちらのアイピローは、神奈川・鎌倉でさまざまな教室や展示などを行っている「山のスコレー」を主宰する小川純一さんのリクエストから生まれたもの。中にあずきとラベンダーが入っており、あずきに含まれる水分と重みが目をじんわりとほぐし、ラベンダーのすっきりした香りがリフレッシュ効果をもたらします。

 

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磯部さんが「自分の原点」と語るコースターは、「カディを使った布作品を作りたい!」と思ったときに、最初に手掛けたもの。パッチワークの方向も分量も一枚一枚違っており、コットンを中心に、ときどきシルクを挟み込んだりもしています。ほんの数センチ四方の小さな世界でありながら、布と布を合わせたときに起こる「組み合わせの妙」が、存分に味わえる作品です。

 

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2017年の頭には、東京・西荻窪にある「食堂くしま」で「ティーコゼ」展も開催。自宅で使っているこちらは、今から2年ほど前に作ったもの。仕事の合間のお茶の時間には必ず登場するそうで、カディの凹凸が繊細な陰影を生み出します。

 

裁縫が得意だったお祖母さま、洋菓子作りに腕をふるっていたお母さまの影響で、子どもの頃から手を動かすことが好きだったという磯部さん。けれどもそれは、マッチ棒で絵を描いたり、色のクレヨンの上に黒のクレヨンを塗りつぶし、釘などでひっかきながら描くスクラッチ画を楽しんだり、卵の殻を彩色して貼り絵をしたり。どちらかというと「手芸」よりは「図画工作」の世界だったと振り返ります。

 

高校生時代はファッションや洋服に興味を持ち、卒業後は女子美術大学のファッション造形学科に進学。デザインやパターン、制作などをひと通りこなしますが、ほんの数ミリの縫い目の違いを突き詰めていく服飾の世界になじむことができず、専門に分かれる3年生からは「造形」コースに進みます。

 

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その造形コースでは、コンセプトを決め、それに沿う素材を選び、立体物であるアート作品を制作。そこで磯部さんは「素材合わせ」の楽しさに目覚めます。ある素材とある素材を組み合わせることによって、単独では生まれなかった面白さを見出せる。卒業制作は水に漬けると溶けてなくなるシートをひたすらミシンで縫い埋めていき、最終的にはシートを溶かして縫い目だけでできた布が残る、という作品を作りました。ミシン目の凹凸が生み出すテクスチャーが、そのまま布として残るのです。

 

「そのときは全然気づいていませんでしたが、何だか今の仕事に通じることをやっていますね。けれどその頃はとにかく地に足がつかず、ふわふわと漂っているような感じでした」

 

大学卒業後、磯部さんは就職活動をすることもなく、さりとて自分が何をやりたいか分からず不安を抱えたまま、代官山にある自家製デリやパンなども提供する食材店に就職します。え? 美大から食材店?? 何やらその脈絡のなさに驚きましたが、「なぜ?」と問いかけると、「豊かな感じがしたから……かもしれません」とのお答え。

 

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みずみずしい色とりどりの野菜があって、カサッと乾いたパンがあって、つるつるしたガラス瓶や缶につまった食材や、袋に入った乾物類がならび……いろんな色、いろんな質感が集まっている空間が、磯部さんにとっては「とても豊かな場所に思えた」そうなのです。

 

ここでも「質感」はキーワード。けれどもふんわりとした動機だった仕事はやはり長続きはせず、次に素材使いに定評のある洋服類や手仕事の工芸品などを扱うショップに転職。そこでの業務がハードで体調を崩し、しばらく仕事から遠ざかった時期もありました。そんなとき、長い間憧れの存在だった、東京・原宿の生活道具の店「Zakka」で、スタッフを募集していることを知ります。面接を経て、見事合格。2010年の春のことでした。

 

→後編につづきます

Profile

磯部祥子(いそべ・さちこ)

女子美術大学ファッション造形学科卒業後、都内の食材店、雑貨店などで働いたのち、2012年より布作品の制作をスタート。「絲室」の屋号で、作品を発表する。作品は神奈川・鎌倉の「山のスコレー」、東京・台東のショップ「フーコ」などで取扱い中。https://www.itoshitsu.com/

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