革作家・華順さん(後編) ~手にしたときの“気持ちよさ”を大切に

”つくる人”を訪ねて
2016.04.26

革作家・華順さん

人気の革小物を生み出すものづくりのおはなし、つづきです。

 

前編はこちらから

 

*************************

 

photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

 

ものづくりをする上で、大切にしているのは「革は命があったものなので、感謝して大切に向き合うこと」。そして使い手の人に「気持ちよく使ってもらえるものをつくること」。

s-闖ッ鬆・&繧・_DSC0073

 

気持ちよさというのは、上質な素材を吟味するということだけでなく、使いやすいサイズ感はもちろん、たとえばパスケースのカード入れのフィット感はちょうどいいか、ストラップの位置はこれでいいのか……そういった使ったときの満足度を含みます。そのためには試作を重ね、「よりよいもの」を作る努力を惜しみません。「たとえばカード入れなども、ほんのディテールが1~2㎜変わるだけでも、出し入れがぐんとスムーズになったりするんですよね」

 

華順さんが日常使いしているというトートバッグの中には、試作の財布が3種類も入っていました。どれもしばらく自ら使い心地を試し、修正を重ねて「これぞ」というものだけを作品にして発表していくのです。

 

s-闖ッ鬆・&繧・_DSC0107

s-闖ッ鬆・&繧・_DSC0111

 

作品は「素材ありき」なので、その素材感を削いでしまうような、凝ったデザインはあまりしたくない。その革のいい部分を、ありのまま生かすような仕事をしていきたい。そうした姿勢を守っていると、自然と型数はそんなに多くはなりません。けれどそのぶん一度定番となった作品は、シンプルでありながらも力強い存在感を持ち、その「完成度の高さ」に見惚れてしまいます。手仕事ならではのあたたか味と洗練されたフォルムの美しさ。そのふたつが共存しているのです。

s-闖ッ鬆・&繧・_DSC0151

華順さんが座右の書として挙げてくれたのは、意外にも身体にまつわる本ばかり。“野口整体”の創始者として知られる野口春哉氏の著書や、整体師の片山洋次郎氏の本などです。

「若いころはまったくの健康体で過ごしてきたのですが、革の仕事で足踏みミシンを使うようになってから、ひどい肩こりや頭痛、腰痛に悩まされるように。身体のこと、もっとちゃんとしなくちゃダメだと思うようになったのです」

 

職場の近所で通うようになったスポーツジムで、偶然ヨガのレッスンを受けたところ、不調が嘘のように解消されていきました。「ヨガって気持ちいい、ヨガってすごい」。一度はまるとのめり込む気質の華順さんは、女性の師匠について学びを深めていき、インドにも二度訪れ、ヨガ漬けの日々を送ったこともありました。

 

身体について深く意識するようになると、「ものをつくる意識」、心の部分にも、大きな影響を受けるようになったのだとか。

 

ものづくりは素材に向き合い、自分と向き合う孤独な作業でもあるので、長い時間続けていくと、知らず知らずのうちに、心にも澱のようなものがたまっていくこともあります。そんなときは、よいことも悪いことも執着せず「手放し、流していくこと」が大切になっていきますが、身体そのものを動かして流れをよくすることが、近道になったりすることも。華順さんの作品に感じられる「健やかさ」は、そんな身体に対する意識の部分も、影響しているのかもしれません。

そして仕事のモチベーションを上げてくれるのは、同じくものづくりをしている友人たちの存在。ここ数年、グループ展やクラフトフェアに出展する機会が増え、交流の幅が広がっていきました。安東希枝子さんのニットアクセサリーや宮本紀子さんのリング、「クウプノオト」松下香葉子さんの織りバッグなどは、お互いに作品を交換し合って手にしたものたちです。

s-闖ッ鬆・&繧・_DSC0141

s-闖ッ鬆・&繧・_DSC0148

 

「勝手に“戦友”感覚で仲間意識を持っているのですが(笑)、誠実なものづくりをしている方々の作品を身につけていると、エネルギーをもらえますし、素敵なものを手にすると何よりも女性としてテンションが上がります。そして自分自身も、彼女たちのようにいいものを作り続ける人間でありたいと、新たな気持ちで頑張れるんです」

 

 

「cimai」のパンはこちらから

陶芸家・岡澤悦子さんはこちらから

イラストレーター、テキスタイルデザイナー・安原ちひろさんはこちらから

ジュエリー作家、アーティスト・鈴木仁子さんはこちらから

Profile

華順(かじゅん)

大学では美術史を専攻。卒業後は働きながらデザイン学校の夜間部に通い、立体デザインを学ぶ。プロダクトデザイン事務所に勤務し、やがてオーダーメイドの革鞄店で5年弱修業を積み、2003年に独立。年に1~2回の個展、グループ展などで作品を発表している。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

ページトップ