新刊『見た目を、整える』 巻頭スペシャル対談 ジェーン・スーさん×長田杏奈さん Vol.1

『見た目を、整える』
2020.06.01

見た目を整えるのは、「誰かのため」ではなく、「自分のため」

私たちは、もの心ついた頃から周囲から見た目を比較され、評価されてきたように思います。クラスでいちばんきれいなのは誰? 学校でいちばんおしゃれなのは誰? と。そこには、「絶対的な美」を頂点とした美のヒエラルキーがありました。そして、雑誌を開けば「愛され服」「モテ顔」といった、「好かれるために女はかくあるべし」と、他者目線を意識した特集があふれ、それは逆に言えば、「嫌われないために女はかくあるべし」という刷り込み。

美容ライターの長田杏奈さんは、著書『美容は自尊心の筋トレ』で「この本を通して伝えたい『美容』は、『絶対的な美』という絵に描いた餅を渇望とともに追いかける無理ゲーではない。自分を大切にすることを習慣化し、凝り固まって狭くなった美意識をストレッチする『セルフケア』の話がしたい」と書いています。「美容は、自分をやさしく扱う練習」なのだと。

そして、コラムニストのジェーン・スーさんは、「美容は自分の気持ちを上げるため。それに対して他人からいい悪いを言われるから腹が立つ」と。

タイプはまったく違うおふたりですが、「美容は自分のため」は共通しています。そんなおふたりに、「見た目を整える」ことについて、お話ししていただきました。


長田杏奈さん(以下…長):私は美容ライターですが、本屋さんの美容コーナーがすごく居心地が悪くてたまらないんです。愛されたい、また会いたいと思わせたい……そんな他者目線のメイク指南があふれているから。いちばん顕著なのが雑誌のTPPO 特集。「いつ」「どこで」「何を」のTPOに「誰と=Person」が加わり、それに合わせて、こういうリップ、こういうチークで行きなさいと言われる。同じ人なんだから、全部同じでいいじゃん! と思ってしまうんです……。

ジェーン・スーさん(以下…ジ):そんなこといちいちやってられないというのはあるし、そういうメイクが自分には似合わないというのはある。でも、コスプレ的な擬態はすごく楽しいから、メイク自体は昔から好きで、化粧品はすごい量を持ってます。私にとってコスメアイテムはおもちゃなので、ガジェット(便利な小道具)的にどんどん変えていきたい。スキンケアとメイクはまた全然別ものですよね。

:化粧心理学の世界でも、スキンケアはインナーに入っていくセルフケア、メイクはアウトプットで自己表現というのが通説。でも、美容の現場にいてすごく感じるのは、自分の顔の間違い探しをしてほしいという人がすごく多いということ。パーソナルカラーに合わせて化粧品を選ぶ「ブルべ(ブルーベース)」と「イエベ(イエローベース)」の企画が受けるのも、誰かに正解を決めてほしいという気持ちの人が多いから。正解じゃなきゃダメなのかと、すごく息苦しさを感じます。スーさんみたいに、人間にトッピングするガジェットとしてメイクをエンジョイできればいいんですけど。

:「ブルべ」と「イエベ」に分類するシステムが悪いのではなく、どういう心持ちでそこに向き合うかなんだと思う。結局みんな打率を上げたいわけですよね。失敗したくない。だったら、失敗への恐怖心ではなく、当たったときって本当に気持ちよく顔が変わるから、そっちにフォーカスしていったほうが絶対楽しい。私はつい最近、赤茶系の口紅を一生分、恐らく10本くらい買いました。自分でいろいろ試して、似合ったり似合わなかったり、自分のなかの正解に近づけていくことが楽しくてたまらない。正解を決めるのは自分で、しかも正解は毎日変わる。


→Vol.2に続きます

photo:枦木 功 text:和田紀子

『見た目を、整える』より

Profile

ジェーン・スー

1973年東京都生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める。近著『これでもいいのだ』(中央公論新社)他、著書多数。

 

長田杏奈

1977年神奈川県生まれ。ライター。女性誌やウェブで美容を中心にインタビューや海外セレブの記事も手がける。「花鳥風月lab」主宰。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)がある。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

ページトップ