【フランスのパンと粉もののお話①】〜フランスの国民食「バゲット」について
はじめまして。湘南でパン教室クラムを主宰しています、池田愛実と申します。
これから4回、フランスのパンや粉ものにまつわるコラムを、美味しい記憶や失敗談を交えて書かせていただくことになりました。よろしくお願いします。
最初に少し自己紹介をさせていただくと、私のパン作りは、今はなき代官山のフランス料理学校ル・コルドン・ブルーのパンのクラスで学んだのが始まりです。卒業後はアシスタントとして働いていました。コルドン・ブルーは多くのスタッフがフランス人だったので、ここで日本にいながら、どっぷりフランス文化に浸かる毎日を送っていました。
その後、実際にフランスのパン屋さんで働いてみたい!という夢を叶えるため、26歳の時にワーキングホリデービザで渡仏。パリとノルマンディー地方ルーアンのパン屋さんで働くことができました。
パリのお店で働いていた時の写真。クロワッサンなどのヴィエノワズリーを担当していた同僚と一緒に。
20代前半という多感な時期をフランスと関わって過ごしたので、パン作りも人生観も大きく影響を受けました。というと聞こえがいいようですが、海外に1人で渡って、もちろんいいことばかりではありません。私も若かったので、失敗も寂しい思いもたくさんしましたし、お金も全然なかった! でも今コロナが蔓延する中、日本で2児の子育てをしながらあの時を思い返すと、夢だったのかなというくらい特別な体験に思えます。
本題ですが、第1回目はフランスの国民食「バゲット」の思い出を少し。
バゲットは日本でいう「おにぎり」的な存在。1本1€前後、約130円と、日本で買うよりずいぶん安いです。
お店の棚を見ると、どこも「バゲット」と「バゲット・トラディション」の2種類があり、最初はどちらを注文すればいいのか戸惑います(フランスのパン屋さんは必ず対面式で、店員さんに注文して取ってもらうのです)。
トラディションは伝統的な製法と粉で作られているので、お店のこだわりのバゲットが食べたければトラディションがおすすめと言えます。普通のバゲットのほうは、もう少しあっさりしていて歯切れがよいです。どちらも半分から買えるので、いろんなお店を1人で食べ歩く時にも買いやすいですね。
私が働いていたお店は2軒とも人気店だったので、バゲットが飛ぶように売れました。パリで在籍していたティエリー・ムニエさんのお店は、なんと1日1000本以上バゲットが売れるそう。昼時になるとお店の外まで大行列。フランスでは日本のようにワンコインの安いランチは存在しないので、まわりのオフィスからバゲットのサンドイッチを買いに来る人が多かったのです。
ティエリー・ムニエさんのお店で窯に入るバゲットたち。
ノルマンディー地方の働いていた店・マブーランジュリーのお昼どきの行列。
お店で働く私たちのまかないごはんも、バゲットサンドは登場率1位! サンドイッチ担当の男の子が70cm近くある長いバゲットを横に切りながら、「サンドイッチ食べる人!」と厨房に声を響かせると、みんな早口言葉のように具材をオーダーします。「マヨネーズ、ゆで卵、ハム!」「チーズ、ツナ、トマト!マヨネーズはなしで!」などなど。
欠かせないのは最初にたっぷり塗るバターです。バター自体が美味しい国ですから、サンドイッチの味を底上げしてくれます。日本のわんぱくサンドのような丁寧さは微塵もありません。すごい勢いでバターを塗って具を挟んでいきます。これは国民性か、生産量の違いか。豪快に作ったサンドイッチ、でも素材がいいから美味しいのです。
ノルマンディーのお店時代に食べていた、まかないのサンドイッチ。具はサラミとサラダ、チーズ。
17時頃、仕事を終えて帰宅する時にも1本もらえるので、夕飯もまたバゲットです。私のお気に入りは「バゲットセレアル」といって、バゲットの生地に大麦やごまが入った香ばしいパン。あとは買ってきたパテなどのシャルキュトリー(食肉加工品)にキャロットラペ、クスクスといったサラダ。チーズと、デザートにマルシェで買ったフルーツや、モノプリで買ったチョコレートムースなどが簡単な夕飯のメニュー。自分で見返して、可哀想なほど狭い部屋で食べていました(笑)
お気に入りだったバゲットセレアル(写真右下)。
簡単に済ませる日の夜ごはん。チーズにバゲット、シャルキュトリー。
パリで住んでいた部屋のロフトから。本当に狭かったけれど、窓の左手にはエッフェル塔が見えました。
では最後に、パリの6区のビストロが営むテイクアウト「ラヴァンコントワール」のサンドイッチを再現した簡単レシピをご紹介します。
具はいちばんシンプルな「ジャンボンブール」=ハムとバター。そして小さなコルニッション(きゅうりのピクルス)がアクセントです。たった4つの材料なので、素材の味が美味しさに直結します。
ラヴァンコントワールでは、ジェラールミュロのバゲットに、フランス南西部ポー産のハムとボルディエのバターを挟んでいます。まさにシンプルイズベスト。美味しいバゲットとハムが手に入ったら、作ってみてくださいね。
パリ6区、ラヴァンコントワール。
こちらが、パリで有名なラヴァンコントワールのサンドイッチ。
ラヴァンコントワール風ジャンボンブール
【材料】
バゲット…約1/3本(80g)
無塩バター(できれば発酵バター)…7g
ロースハム切り落とし…30g
コルニッション(きゅうりのピクルス)…小2個
【作り方】
① バゲットは横半分に切り込みを入れ、霧吹きで水をかけてトースターに入れ、カリッとするまで温める。
② バゲットの切り込みにバターを塗り、ハム、半分に切ったコルニッションを挟む。
Profile
池田愛実
1988年、神奈川県藤沢市生まれ。5歳と3歳の子ども2人のママ。 慶應義塾大学文学部で食育をテーマに学び、大学在学中にル・コルドン・ブルー代官山校パン科に通い始め、卒業後は同校のアシスタントを務める。26歳の時に渡仏し、現地のM.O.F.(フランス国家最優秀職人賞)のブーランジェリー2軒で経験を積み、帰国後は都内レストランのパンのレシピ監修・製造・販売に携わる。2017年から地元・湘南でフランスパンと暮らす教室「crumb-クラム」を主宰。初心者から学べるフランスパンとフレンチ惣菜を教えている。著書に『こねずにできる ふんわりもちもちフォカッチャ』(家の光協会)、『レーズン酵母で作るプチパンとお菓子』(文化出版局)、新刊『ストウブでパンを焼く』(誠文堂新光社)は10月5日発売予定。
https://www.ikeda-manami.com/
Instagram:crumb.pain
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