古くて新しい、お灸の魅力を再発見vol.1
今月の先生・「食とセラピー ていねいに、」福田倫和さん
お灸といえば、おじいさんやおばあさんがするもの……と思う人も多いかもしれません。けれどここ最近、風邪の引き始めや肩こり、腰痛、冷え症解消や妊活などにも効果がある手軽なセルフメンテナンス法として、じわじわと若い人のお灸人口が増えているとか。今回はそんなお灸の世界について、お話を伺ってきました。
photo:砂原 文 text:田中のり子
お灸のもぐさの香りをかぐと、何ともなつかしい気分になります。というのも、今は亡き祖母がお灸をよくしていて、彼女の部屋に足を踏み入れると、その香りがしていたからです。私にとっては、香りだけでもほっとして、気分が安らぐような気がするのです。
今回そんな「お灸」の魅力を教えてくださるのは、西荻窪にある築50年になる昭和レトロなアパートを改装し、定食屋兼セラピールーム「ていねいに、」を営んでいる鍼灸師の福田倫和さん。こちらのお店では毎月1~2回ほど「自宅でできるお灸講座」という、何とも魅惑的なワークショップを開催しています。さぞやお灸には、深いこだわりがあるのでは……と、話を伺ってみましたが、返ってきたのは意外なお答えでした。
「僕は職業で言うと、鍼灸・指圧師ということになりますが、実は『鍼灸』について、ものすご~く深い思い入れがあるわけではないんですよね。昔から東洋医学全般には興味がありました。東洋医学というと、鍼灸や漢方薬というイメージが強いですが、僕は東洋医学の本質は食事や運動、心の持ち方などのセルフケアにあると思っています。鍼灸師や薬に頼るのではなく、まずはご自分でできることをしていくことが大切ではないでしょうか。ただそうは言っても、現代の社会では長時間労働や人間関係のストレスなど心身ともに負担が大きく、セルフケアだけでは対応できないこともありますよね。そんな時には、鍼灸などの施術を受けることも必要になってくると思います」
大学では経営学を学んでいたという福田さん。卒業後はサラリーマンとしてメーカーでの営業も経験しますが、就職当初から「これは一生やる仕事ではないな」という感じがあったそう。京都のお寺に1週間体験滞在したり、心理学や哲学、西洋医学の本を読み漁ったり。親しい友人がうつ病を患ってしまったことなどにも知らず知らずのうちに影響を受け、人の心と身体の関係が気になり、行き着いたのが東洋医学でした。「日本で東洋医学を体系的に学べる場所というと、ほとんど鍼灸学校しかなかったので、そこに3年間通い、鍼灸を勉強しました」
鍼灸師というのはある意味、職人的な技術職。まわりにはマニアックに技術を高めていく人も多かったそうですが、自分はそういうタイプではないと気付いたそう。卒業後はやがて、長野県・安曇野にある「穂高養生園(ほたかようじょうえん)」に就職。そこで6年間スタッフとして活躍します。
「穂高養生園」は、身体にやさしい食事や、ヨガ・散歩などの適度な運動、心身の深いリラックスという3つのアプローチから、本来誰にでも備わっている自然治癒力を高めることを目的とした宿泊施設。元々、初期のガンや重度のアトピー、うつ病などを患う方々が療養のため訪れる場所でしたが、近年は都会で日々忙しく過ごしている人々が、心身のデトックスやリセットのために足を運ぶことも多くなっていったそうです。
「穂高養生園は『自分の健康は自分で守る』というキーワードをテーマにした宿泊施設で、ある意味、東洋医学をいちばん純粋に実践している場所だと思って、働き始めたんです。でも6年間そこで過ごすうちに、逆に東洋医学にもこだわりがなくなっていきました。さまざまな健康法や食事療法を試している方々も大勢いらしたんですが、それぞれの考えは、どこかで必ず矛盾し合うんですよね。誰にとってもいい健康法や食事法というものは存在しないし、あったら苦労しない。結局、いろんな方法を試してみて、自分に合うものを楽しくやればいいんだなと実感したんです」
福田さんが大きな影響を受けたというアメリカの医学博士、アンドリュー・ワイル博士の著書にも、「健康にいいとされている栄養満点の食事をひとりでさびしく取るよりも、ジャンクフードであってもみんなで楽しく食べたほうが身体にいい」と記述されているそう。
「ワイルさんの素敵なところは、ものすごく柔軟なんです。西洋医学も大切だし、東洋医学もいいし、ホメオパシーでもいい。呪術的な療法も本人が実際に受けに行ったりしているんですよね。僕も、他の方法を否定するような療法はあまり好きではなく、そういう意味でも『鍼灸がいちばん優れている』とかは思っていないんです。もちろん、専門家が情報を提供したり、必要なことを伝えることは大切ですが」
やがて福田さんは生まれ育った街、東京・西荻窪に戻り、「穂高養生園」での同僚だったcayocoさん(タイマッサージ、リフレクソロジー、朝ごはん・昼ごはん担当)とともに「食とセラピー ていねいに、」を2012年オープンします。長野で学んだ「自分の健康は自分でつくる」という教えを、より日常的に実践するために、毎日の食事とメンテナンスとしてのセラピー、ワークショップを柱にした場所をつくり上げたのです。
第1回「頭も心もとろんとろんになるヘッドマッサージ」はこちらから
第2回「身体にふれることで、ありのままの姿を観察し認識するセラピー」はこちらから
第3回「身体を土台から整えていく、究極のインソール」はこちらから
第4回「天然ヒノキ&酵素のチカラで、ツルツルほかほか」はこちらから
第5回「家庭の薬局として、はちみつを見つめ直す」はこちらから
第6回「腸活は、自分の体質に合ったものを!」はこちらから
第7回「生理&骨盤底筋トレーニングで、明るく体と向き合う」はこちらから
第8回「自分を知ることで自己治癒力を引き出すホメオパシー」はこちらから
第9回「冷えとり歴 23年目の、冬の過ごし方」はこちらから
第10回「心に効くから、からだも思考も変わるフラワーエッセンス」はこちらから
TEL:090-3452-3354
営業時間:【食】火18:00~21:00(LO)、水~金9:00~14:00(LO)、18:00~21:00(LO)、土・日12:00~16:00(LO) 【セラピー】10:00~21:00
定休日:月曜
http://teineini.com/
Profile
福田倫和
会社員を経て、2006年東洋鍼灸専門学校卒業、2006~2011年長野の「穂高養生園」にて勤務。地域の方々の健康と暮らしをサポートしたいという思いから、生まれ育った東京・西荻窪にて2012年「食とセラピー ていねいに、」をスタートする。趣味は温泉と合気道。
田中のり子
衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。