「老舗」…おすすめ帖vol.5
『ナチュリラ』本誌でも、季節ごとのリアルクローズとそのおしゃれな着こなし方を提案してくださっている人気セレクトショップ「アナベル」。店主の伊佐さんによる「季節のおすすめ帖」連載コラムです。季節ごとのおすすめの品を月に2回、ご紹介。第五回目は、代官山にあるあのお店のコートです。みなさん”あのお店”で思い浮かべたのは”どのお店”?
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photo:川本浩太 text:伊佐洋平 model:伊佐奈々
25年以上前、まだ靴屋でアルバイトをしていた時代、給料を貰うと原宿から渋谷まで歩き回り、現在は工事で景色が変わってしまったが、山手線の線路沿いをさらに歩いて、代官山エリアまで足を延ばし買い物をしてまわっていた。最後は、当時増え始めていた駒沢通り沿いの輸入雑貨店をめぐりながら恵比寿駅まで歩きとおし、山手線に乗って帰るのだが、代官山エリアで毎回必ず立ち寄っていたのが、「ハリウッドランチマーケット」だ。
25年以上前ですでに老舗と呼ばれていたそのお店は、セレクトショップ御三家と呼ばれる店たちよりも3年ほど早い、1972年の創業で、しかも場所は代官山。
1950年代~60年代、アメリカのファッション文化を日本にもたらした「VAN」をはじめ、ビートルズやツイッギーの来日、東京オリンピックで盛り上がっていたその時代から、おそらく新しい何かを始めたくて、誰も手を付けていないその土地で、歴史を刻み始めたのだろう。何もかもが感覚的に並び、能書きや秩序なく自由に構成された店内の品々はどれもが新鮮に、刺激的に目に飛び込んできた。今では珍しくない、短パンにスパッツの男性ファッションのスタイリングを目にしたのもこの店が初めてだったと記憶している。
今回は、「らしさ」を追求し始めた先駆者ともいえる、「ハリウッドランチマーケット」を手掛ける会社、「聖林公司」が企画した面白いコートをご紹介したいと思います。
長いパーカースタイルのように見えるコートは、お察しの通りミリタリーアイテムである。
ただし、リプロダクトではなく、本物を使用したリメイクである。大好きで買っていた頃を思い出しながらバイイングしている今、彼らの洋服に対する懐の深さにはあらためて感銘を受ける。
アメリカ軍のスノーパーカーを後染めしたものであるが、そのままのサイズ感覚で、ユニセックス展開で売り出したところに面白さを感じさせる。
ファッションはいつだって、着る側に自由がある。
わかりやすいようにメンズとレディースは分かれているし、ジャストサイズでの着心地やサイズバランスを考えた時にそれは必要不可欠な区別であることは間違いないのだが、昔の映画や写真集に幾度となく登場するように、男性服を女性が着てはいけないというルールは全くない。
「かっこいい」「素敵」「着たい」と思ったら着ていいのです。
僕が知る以上、それが面白いということを、彼らは25年以上も前から実行しているわけですが、それがただ、彼らにしてみれば、現在も進行中であるということに過ぎないのかもしれません。
今回のこのリメイクスノーパーカーは、その最たるものでしょう。だって、男性が着てもデッカイことに変わりはないほどサイズは大きいんですから。
袖口はゴムになっていますが、男性である私が着ても、袖が抜けるほどボリューム感はある。
しかしどうでしょう。。
着たいと思ったら、袖をまくってみればいい。
まくってみたら…「あれ?かわいい。」
現在の若者がお父さんの洋服をあさっているという番組をテレビで見たことがありますが、それがまさにファッションの基本であると思う。自分も確かに昔はそうだった。
このオーバーサイズのスノーパーカーの提案は、「ユニセックスで提案しています。」という彼らの思惑に、楽しく乗ってみた結果です。
「どのくらいの人たちが面白がってくれるだろう?」
そんな思いで店頭に並べたら…「あれ?もうなくなった」。
驚くほどの反応があり、正直、内心はかなり嬉しかった。
とはいえ、少数派であることに変わりはないのだが、購入にいたらないにせよ、かなりたくさんのお客様が手に取って興味を持ってくれる。
実は男性でありながら、レディースのセレクトを始めた理由のほとんどがその事例に集約されている。
ファッションは着るものであるから、もちろんその素材感や着心地、いざ買うとなると、トラディショナルなものの背景や知識も重要であるが、最も大切なことはやはり気分が上がるかどうかである。
そういった角度でファッションをとらえた時、男性よりはるかに女性のほうがその感覚に優れているし、素直であると感じられる。
1969年に開催された東京オリンピックのわずか3年後、代官山の現在と同じ場所にハリウッドランチマーケットを開いたわけであるが、その歴史の重さは計り知れない。
ただ、ライフスタイルと連携して、きれいにまとまり過ぎるように感じさせられるカジュアルファッションに、一石を投じることができるとしたら、やはり彼らのような老舗のセレクトショップなのかもしれない。
私自身、お店を始めてようやく7周年を迎える今、創業46年の凄味と寛容さ、そしてファッションに対する前のめり具合に感銘を受けるのです。
コート:SEILIN(リメイク) ¥9,000+tax
ワンピース:susuri ¥30,000+tax
バッグ:KHOHi ¥23,000+tax
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営業時間:11:00~20:00
定休日:水曜
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