〜卵のチカラでうるおいを逃さず閉じ込める献立〜 茂田正和さんの食べる美容 料理教室レポートvol.10レポート【前編】

食べる美容 料理教室
2025.12.28

健やかで美しい肌を保つライフスタイルをデザインする、化粧品『OSAJI』のブランドディレクター 茂田正和さんは、プロの料理人も思わず唸るほどの料理の腕前の持ち主。著書『食べる美容』(主婦と生活社)では、季節ごとの肌悩みをケアする美容養生食を提案し、レシピ作成から調理まで担当。そんな茂田さんが自ら講師を務める料理教室が合羽橋の『釜浅商店』イベントスペースでスタート! 耳寄り情報満載のレクチャーの様子を、不定期連載にてお届けします。


 

長年の化粧品開発者としての経験から、「化粧品だけであらゆる人の肌をキレイにするのは限界がある」と感じた茂田さん。その突破口は、普段から口にして体を内側からつくっている食との併走にあると気づき、数年前から得意とする料理で美容食養生を伝えるアプローチをスタートしました。

今回のテーマ食材である卵は、年齢を重ねるにつれて「コレステロール値が上がりそう…」という理由から食べる量を控える方が増えがちな食材。しかしながら、年齢を問わず人間の体にとって大切な働きを担ってくれることを、茂田さんはこの料理教室を通じて、とくに乾燥悩みが深まる冬にとり挙げたかったそう。

「卵って、確かにコレステロールが豊富な食材ですよね。ただコレステロールを一概に悪者扱いするのはちょっと前の傾向といいますか。最近の統計では基準値と言われているものの上限に近いくらいの方が長生きするといった論文も出てきているほどで、忌み嫌うだけが正解ではないということを知っていただきたいんです」

 その背景には、化粧品開発者として健やかな肌に必要な栄養の摂り方を探ってきた茂田さんと、茂田さんのお母様の肌悩みに関するエピソードがありました。

 「僕の母は今年75歳になりましたが、60代半ばぐらいの時の健康診断でコレステロール値の高さを指摘されたんです。母は、そこからすぐに卵を食べるのを止めました。ところが少し経つと、スキンケアは何も変えてないのに、やたら肌が乾燥するようになったのと、僕に言ってきたんです。じゃあ、何か食生活で変えたことはある?と聞いたところ、卵を食べるのを止めているというので、朝食に1個くらいなら復活しても良い?と話してまた食べるようになったら、乾燥状態が緩和していきました。なぜ僕がこういうアドバイスをしたかというと、コレステロールは肌の水分を閉じ込めるための油分、具体的にいうと角層に存在する細胞間脂質の主成分であるセラミドの原料として欠かせない栄養素だからなんです」

 

血中のコレステロール濃度は、高過ぎると動脈硬化の原因になるという問題はあるものの、低すぎても皮膚の健康を損なう原因となるため、自分の適量を知って、とくに乾燥しやすい冬場は卵を献立に取り入れて欲しいという皮膚科学視点での茂田さんの考えから今回のレシピは生まれました。

 というわけで、献立のラインナップは卵を使っなめらかで柔らかな口当たりの南禅寺蒸 中華あんかけ、ライスペーパーで卵を絡めた炒め物を包む平焼春巻、鱈子と小葱のサラダ、牡蠣の蒸しご飯の4品。前半では南禅寺蒸 中華あんかけと、平焼春巻の2品の調理の模様をレポートします。

 

南禅寺蒸 中華あんかけ

南禅寺蒸とは、絹ごし豆腐や豆乳を、卵と出汁に混ぜて裏ごししてから蒸し、熱々のあんかけをかけていただく料理。今回は、豆腐や豆乳は使わずに卵とエイヒレの出汁で茶碗蒸しより柔らかでとろっとした南禅寺蒸し風に仕上げ、中華料理でおなじみのあんかけをそっとのせて仕上げました。

 「食べる美容料理教室の2クール目では、料理でいろいろな国へ旅に出るというサブテーマがありまして、今回は中国です。いわゆる本場の中華料理を再現するというよりは、栄養面の工夫も組み入れ、日本で手に入りやすい食材で僕らしく仕上げた中華テイストという感じです」

 

まずは、水を入れた鍋に、乾物のエイヒレと干し椎茸、スライスした生姜、長葱の青い部分を入れて弱火で10分煮て出汁を1リットル(4人分)ほど取る作業から。

 「弱火で水から煮出せば、エイヒレや干し椎茸をあらかじめ水で戻しておかなくても大丈夫です。10分経ったら軽くアクを引いて煮汁をざるで濾し、粗熱を取ります。残ったエイヒレと干し椎茸は、後ほどあんかけの具として使います」

 ボウルに卵(4個)を割り入れて溶き、粗熱が取れた出汁の600mlを注ぎ入れる。さらにオイスターソース、塩、太白ゴマ油を加え、よく混ぜ合わせた卵液をざるで濾し、4等分して器に移す。

 

「器に卵液を入れたら、ラップで包んで蒸篭に入れて弱火で15分蒸します。もしお家にあるようなら、ラップで包む前に着火ライターを使って表面の気泡をさっとなぞると、簡単に気泡が消えて表面がよりなめらかに仕上がりますよ」

 

蒸している間は、中華風のあんかけ作り。鍋に残りに出汁400mlを入れて、出汁を取る時に使ったエイヒレをほぐし、干し椎茸は切って、プラスでそぎ切りした姫竹を加えて強火にかける。沸騰したら、醤油、オイスターソース、みりんで味つけをし、最後に水溶き片栗粉でとろみをつける。

 

「エイヒレの出汁には、中華料理で嗅いだことのある独特な香りがあって、これはアンモニア由来の香りです。実は、中華料理でおなじみの高級食材フカヒレもこのアンモニア由来の香りがあって、旨みの鍵となっています。なので、フカヒレはそう簡単に買えなくても、エイヒレを使えば香りも食感もかなり近いものがつくれるんです」

蒸篭から出した南禅寺蒸しはとても柔らかいので、あんかけは優しくのせるようにかける。仕上げに2cm幅に切ったパクチーを散らして完成。

 「本格的な中華料理の味わいにグッと近づくこのエイヒレ出汁とオイスターソースのあんかけは、五目焼きそばにかけたり、中華丼や八宝菜と中華料理のいろいろなレシピに活用できます」

 

平焼春巻

タンパク質も豊富に含んでいる卵は、健康な成人なら1日に2個くらいは適量の範疇ということで、もう1品の副菜は中に入れる具材に卵を纏わせた焼き春巻。

 「“平焼春巻”というのは、実は僕が勝手に命名したし造語です。いわゆる春巻の皮は使わず、ライスペーパーで平たく巻いてフライパンで焼きます。ライスペーパーを使うと、焼いた時にもちっととしたニラまんじゅうのような食感になって美味しいんです。今回の具材はキノコや豚肉ですが、お家でまた作るときはお好みでいろんな具材を試してみてください」

温めたフライパンに太白ごま油を引き、細めに切った豚肉を入れて中火で炒め、火が通ったら千切りにした生姜、エリンギ、タモギ茸、白舞茸、えのきなどの木の子を入れて炒める。

 木の子がしんなりしてきたら、みりん、オイスターソース、黒胡椒を加えてよく混ぜてから火を止め、ボウルに移してあらかじめ溶いておいた卵に絡め混ぜて粗熱を取る。

 「具材にも味は付いているのですが、粗熱を取る間に味変用のタレを作ります。黒酢、醤油、ラー油、千切り生姜を混ぜるだけです。酸味や辛味がもう少し欲しいな、という時に便利なタレです」

炒めた具材の粗熱が取れたら、まな板など平らなところに濡れ布巾をセット。水で戻して柔らかくなったライスペーパーを置き、具材をのせて平たく包む。包み終わったら、温めたフライパンに太白ごま油を引き、中火で何度かひっくり返しながら焼いて完成!

「水を含んだライスペーパーは破れやすいので、具材をのせるときは、汁気が入り過ぎないように気をつけてください。包んだ後も、濡れたキッチンペーパーの上に隣とくっつかないように置いておくと焼くまできれいな形を保てますよ」

コレステロールは、体内で悪玉化すると動脈硬化など健康に悪影響となる可能性もあるため、重要なのは自分の適量を知ることと、食べ合わせ。後編では、レシピの紹介とともに、摂取したコレステロールを悪玉化させない栄養の組み合わせについて、茂田さんが解説してくれます。

 

→【後編】へ続きます

photo:小松原英介 text:石塚久美子

 

『食べる美容』


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Profile

茂田正和

Masakazu Shigeta

音楽業界での技術職を経て、2002年より化粧品開発者の道へ。皮膚科学研究者であった叔父に師事し、肌にやさしい化粧品づくりを追究する中で、健やかな美しさにとっては五感からのアプローチも重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI』を創立、ブランドディレクターに就任。2022年には、香りや食から心身を調律するOSAJIとレストランの複合ショップ『enso』(鎌倉・小町通り)を手がけ話題に。同年9月、初の著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)を出版。2023年は、日東電化工業のめっき技術を活かした器ブランド『HEGE』のプロデュース、そして日東電化工業より分社化された株式会社OSAJIの代表取締役に就任と、自身にとって大きなターニングポイントの年となった。

Instagram : @masakazushigeta
https://shigetanoreizouko.com/

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