今年の夏こそ! 粋な「竺仙」の浴衣 前編

大人の江戸あるき
2018.06.14

相撲、歌舞伎、落語、老舗めぐりと江戸文化好きな編集・執筆業の森有貴子です。
小さな湊(みなと)が徳川家康により政治都市へと築きあげられ、ロンドンやパリなど世界の都市に先駆けて、百万都市へと発展を遂げた江戸の町。世界一の賑わいをみせた“大江戸”で腕のいい職人や才覚のある商人が切磋琢磨して生みだした技術や銘品は、今の世へと受け継がれています。

けっして古びず、むしろ新しいと感じる、江戸が薫る老舗をたずねて伝統を紡ぐひとへ会いに、そんな連載をこちらではじめることとなりました。“大人の江戸あるき”、どうぞよろしくお願いいたします。


大人のおしゃれさんを虜にする「竺仙」


第一回目は、「今年こそ欲しい!」と私が毎年のように思う、浴衣の「竺仙」へ。人気の女性誌の浴衣特集には、必ず何種類もの新作が登場するため、普段着物に馴染みがなくてもその名をご存じの人は少なくないと思います。決してお手ごろとは言えない価格なのに、新緑のころには「『竺仙』の浴衣が欲しい」と全国のファンが店へと詰め掛けます。大人のおしゃれさんを虜にする、「竺仙」の本店へとおうかがいしました。

 

 

天保13年創業、贅沢禁止で浴衣が盛りあがる?!


「竺仙」の歴史をちょいと紐解きますと、天保13(1842)年に友禅を染めて売る店として、初代・仙之助が浅草で商いをはじめます。お客さまの要望で小紋を染めるようになり、その技術を生かして浴衣の染めを手掛けるように。当時の浴衣といえば、無地か絞りが主流だったそう。俳句や絵画を嗜む趣味人だった初代が考案した柄を染めた浴衣は、“粋”と称されて江戸市民へと広がっていきました。

 

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『江戸な日用品』(平凡社)より転載。撮影/喜多剛士


親交のあった役者や文人に着せたことで、さらに注目をあびるように。当時、天保の改革により奢侈禁止令が発布。幕府は贅沢を禁じ、庶民は麻か木綿のみ着用とお達しが出ていました。そこで人気の歌舞伎役者が着る柄染めの浴衣に、おしゃれな江戸市民は飛びついたのです。そうそう、「竺仙」の屋号の由来がおもしろい。背の低かった仙之助は周囲から「ちんちくりんのちび仙」と呼ばれていました。それを遊び仲間だった歌舞伎役者・市川左團次が縮めて、「竺仙」と命名したとか。町に人に愛されていたことがわかるエピソードですね。

 

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江戸団扇の伊場仙とコラボレーションした団扇

 

後編では、大人の浴衣選びのポイントやおすすめの新作について、ご紹介します。

 

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定番や新作など多くの浴衣がそろう本店

 

竺仙(ちくせん)
東京都中央区日本橋小舟町2番3号

☎03-5202-0991
営業時間:9:00~17:00
休日:土、日祝日(4月~7月は土曜日も営業)
http://www.chikusen.co.jp

Profile

森有貴子

Yukiko Mori

編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。

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