暮らしになじむ、あかがね「星野銅銀銅器店」

大人の江戸あるき
2018.12.18

●歳の市で賑わう浅草寺そばの銅器店



十二月も半ばになり一気に師走めいてきました。この時期、今や羽子板市としてお馴染みの「浅草歳の市」(12月17日~19日)が開かれます。江戸時代は、新春を迎えるための道具がすべて揃う市として、江戸市中から人びとが「浅草歳の市」へと足を運びました。

 

s-h1コーヒーポットからおでん鍋まで調理道具まで道具がずらり。


浅草寺参道から周辺にはずらりと屋台が建ちならび、新たな一年のために道具を選ぶひとで賑わう様子が、江戸の年中行事をまとめた「東都歳事記」(天保九年出版)に描かれています。江戸の歳の市では、銅鍋は売られていたのかな?と思いながら、訪ねたのが浅草寺裏にある「星野銅銀銅器店(ほしのどうぎんどうき)」です。

 

s-h2昔から人気の銀製や銅製の急須ややかん。

 

●今の暮らしにあわせた使いやすい銅器を



大正十三年創業の星野銅銀銅器店。銅器なのに銀という文字が入るのは「初代の祖父が、銀次郎という名前だったから」と笑う、三代目店主・星野保さん。創業時は、火鉢のなかに入れる“落とし”(火鉢に入れる炉の箱)や銅壺(火鉢内の湯沸かし)を、二代目の時代からは調理器具を手掛けるようになります。

 

s-h3千束通り商店街にある「星野銅銀銅器店」。毎年酉の市のときには、夜遅くまで営業しているそう。

 

今では三代目の星野さんが、代々受け継ぐ“落とし”や銅壺、茶事で使う道具、鍋やフライパンなどの調理道具まで、すべてひとりで手掛けています。「調理器具も昔と同じではなく、サイズを変えたり、銅板の厚さを見直すなど、今の暮らしにあわせて改良を重ねています」。またコーヒー好きな星野さんは、銅製のコーヒーケトルやマグカップにも力を入れています。

 

●使いこむほどにいい色合い、育てる楽しみがある道具



銅は、熱が伝わりやすく冷めにくい。抗菌効果も知られていて調理道具にとても適した素材。「銅製のやかんや鍋を使うと、水道水がまろやかな味になる。ご近所に、うちのコーヒーケトルを使っている珈琲店がありますが、コーヒーがおいしくなったと言われますよ」。

 

s-h4槌目打ちをしたミルクパン(7,000円)や小鍋(20,000円)など、暮らしになじむあかがね道具。

 

さまざまな道具があるなかで、目を惹くのがキリッとした表情の“玉子焼き器”です。料理人から道具好きまで多くの人が愛用する、星野さんが作る玉子焼き器。美しいだけではなく、角が立っていることで熱が均一に伝わり、きれいでふっくらとした焼きあがりになるそう。

 

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おいしそうにふっくら焼ける玉子焼き器。小12.5×15㎝(6,500円)、 中13.5×16.5㎝(7,000円)


s-h6金槌を使って叩きあげ、角をたてて仕上げていく。叩くことで銅の分子が詰まり、銅器の耐久性もあがるそう。


使い込めば込むほど味わいがでてくる、あかがね道具。江戸時代にならって、新たな年へと道具をあらためるならば、育てていく楽しみがある道具を選びたい。玉子焼き器、いいな、いいな、です。


*商品すべて税抜、2018年12月現在のものです。

 

星野銅銀銅器店
東京都台東区浅草4-22−10

☏03-3872-7328
営業時間 9:30~18:00
休日 不定休

Profile

森有貴子

Yukiko Mori

編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。

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