粋なカフェで老舗団子を 「羽二重団子」

大人の江戸あるき
2019.09.17

●江戸っ子の賞賛が屋号「羽二重団子」へ


夜空が澄み渡る秋は、月の美しい季節です。十五夜には一年の豊作を祈念して、十三夜には収穫を感謝して、お供えをして月見を愛でる。昔から旧暦の8月15日と9月13日のお月見は大事な秋の習わしでした。

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江戸っ子の賞賛からついた屋号「羽二重団子」の焼き団子と餡団子(一本280円)

 

江戸のころ、音無川沿いの風光明媚な地として名を知られていた根岸の里。文政2(1819)年、植木職人だった初代がその地に茶店を構えたのが「羽二重団子」のはじまりです。もとは「藤の木茶屋」と名乗っていましたが、店の団子を食べた客から「きめ細かくて羽二重のようだ」と賞されて、そのまま屋号になったそうです。昔ながらの茶屋を思わせる一軒家のお団子屋は、2019年5月に大きく改装。明るい陽射しがふりそそぐ開放感のある店へと生まれ変わりました。

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自然光がそそぐ心地のよい店内。団子の抜型をあしらった遊び心のあるテーブルや椅子でご一服を。

 

●平たい団子にはワケがある!?


もっちりした粘りとコシのある歯ごたえの羽二重団子は、庄内産はえぬき米を自家製粉して、蒸しあげて臼で搗いて生地を作ります。醤油の焼団子と餡団子の二種類作っていますが、それぞれの風味にあう生地を作り分けしているとか。200年続く老舗だからではなく、細かいこだわりを積み重ねているから、今も愛される羽二重団子なのです。

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羽二重団子と煎茶のセット(560円)を楽しみに毎日訪れるご常連も多いとか。

 

そして平べったいお団子は、羽二重団子ならでは! 「中国から伝来した際には、神様への供え物だった団子。供え物をいただくのは恐れ多いと、初代が親指でキュッと押して平たくしたといわれています。また平たいほうが焼いた時に団子の芯まで火が通る。そんな理由もあったのではないでしょうか」と七代目店主・澤野修一さん。

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近くには明治の文豪の住まいも多く、正岡子規や夏目漱石も羽二重団子をご贔屓にしていたそう。『吾輩は猫である』をイメージした「漱石もなか」(350円)は、団子生地入りのしずくあんが入った最中。お団子とセットでもいただける。

 

●賞味期限は一日限り、心伝わる江戸な手土産


「温暖化の影響もあり餡が痛みにくいように餡の砂糖割合を増やしたり、健康志向により醤油の味が昔より柔らかくなっていたり、と多少は世の中にあわせた味にはなっている」と話す店主・澤野さん。とはいえ昔とほぼ変わらぬ製法で、当日売る分だけを仕込むという羽二重団子。賞味期限は一日限り、だからこそ心の伝わる手土産に。

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夏目漱石や正岡子規の書籍はご常連から寄贈されたものも。ページをめくりながら文豪ゆかりの菓子をいただくという贅沢なひとときを。

 

十五夜と十三夜には、お月見団子を限定で販売するとのこと。老舗の団子で月を愛でるなんて、ちょっと粋ではありませんか。

 

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総ガラス張りで入りやすくなり、昔ながらのお客様にくわえて若い世代からも団子を楽しめるカフェとして親しまれている。




*商品すべて税抜、2019年9月現在のものです。

text&photo:森 有貴子

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羽二重団子

東京都荒川区東日暮里6-60-6
TEL:03-5850-3451
営業時間:10:00〜18:00
休日:年末年始
https://habutae.jp/

Profile

森有貴子

Yukiko Mori

編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。

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