江戸創業の都会派菓子屋、「青野総本舗」
●移り変わる六本木で、変わらぬおいしさを160余年
六本木の真ん中に、江戸時代創業の菓子屋「青野総本舗」があります。もとは神田で水あめ問屋を営んでいましたが、幕末の安政3(1856)年に麻布市兵衛町(現・六本木1丁目駅あたり)に移り、菓子屋を開業します。近くの寺社仏閣や大名家などへの、菓子の御用を務めていたそう。明治のころには、現在の地で商いをはじめます。
四代目が手掛けた青野銘菓「鶯もち」。なめらかなこし餡を柔らかな求肥で包み、香ばしいきな粉をまぶした菓子/230円。
「昭和のはじめごろまでは、六本木周辺は閑静な屋敷街でした。店売よりも顧客の御用をきいて菓子をつくることのほうが多かったかもしれません。場所がら料亭からのご注文は今でも多いです。日本料理では料理人は菓子を作りませんからね」と、六代目店主の青野輝信さん。昔ながらの顧客はもちろん、六本木ヒルズやミッドタウンができたことで社用のお遣い物として、近隣に暮らす海外ファミリーのパーティ用など、新たなお客様が菓子を求めて訪れるようになりました。
時代ごとに変わりゆく六本木とともに、変わらぬおいしさを提供してきた青野総本舗。
●演劇人から文化人まで、広く愛されてきた「鶯もち」
モダンなビルには売場だけではなく工房もあり、そこですべての菓子が作られています。工場長である大津清人さんは、「青野では、小豆も砂糖も粉もすべてこだわりの素材を使っています。最高の材料で菓子作りができることは、和菓子職人として大きな喜びでありやりがい」と、話します。代々続く味を守りながら、青野の新たな菓子づくりを追求しています。
紅白饅頭に焼き印を押す工場長の大津さん。青野歴30年のベテランが一番好きなのは「羽二重餅」。就職試験で食べた、この羽二重餅のおいしさが忘れられないそうです。
青野と名が入った菓子の木型。
店の人気菓子に、こし餡を包んだ求肥の皮にきな粉をまぶした「鶯もち」があります。青野さんの祖父・四代目が、歌会始のお題「舟」に着想をえて「笹船に眠る鶯」というイメージで創製しました。当時、新劇の俳優だったご家族の贔屓菓子だったそうで、今でも舞台の差し入れ菓子としてお馴染みだとか。「演劇界とも深く関わりのある三島由紀夫さんにもご贔屓をいただいていたようです。『鶯もち』は、しっとりした餡とくちどけの良さにこだわった菓子。世代問わず食べやすい、そんなお菓子です」
深まる秋にふさわしい栗菓子。左から刻み栗と栗餡の詰まった「栗最中」/210円、秋ならではの暦菓子「栗茶巾」/350円、栗寄せ菓子の「子持ち栗」/130円。
●庶民派おやつを気の利いた贈り物へ
青野さんが再ヒットさせたのが、青野名物「どら焼き」です。「昔から愛されてきたどら焼きですが、皮をふっくら柔らかに、餡をよりしっとりなめらかにと、時代にあわせて味を見直しました。味への工夫とともに、カタチやオリジナル焼印を提案したことで、引き出物や配り物としても使っていただけるように」。ハート型やスマイル焼き印のどら焼きは、贈り物として人気があるそうです。
風味豊かな手返しどら焼き(260円)。栗入りどら焼き(290円)も人気。
四季の情景を描いた上生菓子から庶民派おやつのどら焼きまで、作り立てのおいしさが楽しめる江戸創業の都会派菓子屋です。
*商品すべて税込、2019年10月現在のものです。
東京都 港区六本木3-15-21
TEL:03-3404-0020
営業時間:9:30~19:00
(但し祝日・土曜9:30~18:00)
休日:日曜、元日
https://www.azabu-aono.com/
Profile
森有貴子
編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。
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