甘くてみずみずしい、江戸の野菜菓子「梅鉢屋」

大人の江戸あるき
2019.11.13

●江戸の伝統菓子、野菜の砂糖漬とは?

江戸のころは、風情ある田園地帯として知られた向島。四季折々の情景を愛でるため、多くの文人墨客が訪れたと言います。今ではすっかり東京の名所となった、東京スカイツリーのお膝元であるこの地に、江戸の味を伝える菓子屋「梅鉢屋」があります。


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色鮮やかで美しい「野菜菓子」の詰め合わせ。/9種類入り1,350円。中元や歳暮などの贈り物にもいい、杉の重箱入りも(6,048円)。


梅鉢屋の名物「野菜菓子」は、野菜の砂糖漬です。江戸時代、農産物や海産物の長期保存のために糖蜜で加工したことが砂糖漬のはじまり。当時から漬物などの塩漬けに対して、砂糖漬とよばれていました。江戸時代の、相撲番付に見立てた、東西菓子番付には小結や関脇として、また江戸のガイドブック『江戸買物独案内(えどかいものひとりあんない)』にも砂糖漬を商う店が載っていることから、ひとびとに親しまれていた菓子のようです。


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店の初代が関東大震災の際に無事を願った亀戸天神のおかげで一家が助かる幸運に恵まれた。そこで、天神様の紋「梅鉢」にあやかり屋号を「梅鉢屋」としたとか。

 

「高価な砂糖をたっぷりと使う砂糖漬は、非常に貴重なお菓子でした。江戸の作家・滝沢馬琴の日記などにも客が持参してくれたなどと書かれていますが、人びとは手土産や贈答菓子として使っていたようですね」と話してくれたのは、三代目店主の丸山壮伊知さん。丸山さんの祖父である梅鉢屋の初代は、幕末のころより砂糖漬屋を商っていた親戚の店で修業を積み独立。向島の地に店を開いたそうです。

●お使いものにふさわしい、唯一無二な砂糖漬

江戸ころから作られていたのは、生姜、蜜柑(皮)、昆布、牛蒡、大根を使った砂糖漬。「昔からの素材に加えて、父の代にはナスを、私の代になってからゴーヤやトマトなどを、取り入れました。ありとあらゆる野菜を試したうえで、今は10~15種類ほどの野菜菓子を手掛けています」。


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トマト、レンコン、生姜、夏ミカン、大根、ニンジンなどの砂糖漬。


菓子の味を決める野菜は、砂糖漬に適した産地のものを市場で仕入れているそう。一部は生産者から直接買い付けます。「菓子として仕上がりがいい素材を選んでいます。大根は旬ごとに一番いい産地から、レンコンは茨城、ナスは高知、など。高知のナスは、仕上がりがとてもいい。値が張りますが仕方ありません(笑)」


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煮詰めたレンコンをバットに広げて砂糖をまぶしていく丸山さん。とろりとした状態は、砂糖をまぜているうちにサラサラに変わっていく。


製法は昔とさほど変わりはないそう。野菜を小さく切りわけて水から茹で、グラニュー糖を溶かした鍋で煮たて、味をしみこませていきます。味がしみこんだら熱いうちにバットに広げて砂糖をまぶします。どの工程をとっても機械まかせにできない、ひとつひとつタイミングをみながら作業をすすめていく手間ひまのかかる仕事です。「蜜をしみこませながらも野菜の瑞々しさを残すように仕上げないといけない。早いもので仕上がるまで3日間。長いものでは10日間ほどかかります」。

●抹茶やお酒とあわせて楽しみたい

手間暇かけて出来上がった色鮮やかな野菜菓子。口にいれると甘さのなかに野菜の風味が感じられます。丸山さんの言葉通り、瑞々しくて柔らかな食感には驚き!「野菜の水分があるでしょう。だから柔らかいんです。野菜の水分は、少しずつ抜けていきますので、賞味期限は2週間としています」。おすすめの食べ方は?「やはり甘いものなので、苦みとあわせるとおいしい。お抹茶とあわせていただくのが一番。お酒と合わせる方もいらっしゃいますけどね」。


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大根の砂糖漬と梅肉を使った菓子「梅若」。隅田川付近で非業の死を遂げた、京の貴族・梅若丸。木母寺の梅若忌(4月15日)に奉納していた菓子ゆえに毎月15日だけの限定販売。/1,188円(五個入り)

 

江戸の流れをくむ砂糖漬をつくっているのは、東京では梅鉢屋一軒だけ。江戸情緒あふれた向島散策とともに、珍しい伝統菓子をいただいてみるのいいものです。


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店に併設している砂糖漬や甘味が楽しめる茶房も人気。


*商品すべて税込、2019年10月現在のものです。



梅鉢屋

東京都墨田区八広2-37-8
TEL:03-3617-2373
営業時間:9:00〜18:00
休日:第二・四月曜、日曜・祭日
http://umebachiya.com/

Profile

森有貴子

Yukiko Mori

編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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