書棚のはじまり

今日のひとしな
2026.10.16

〜「en-shouten」より〜 vol.16

子どもの頃から、お笑い番組が好きでした。映画や音楽、美術、工芸と、歳を重ねるにつれて好きなものは広がっていきましたが、お笑いは今でも好きで、なんだか自分の根っこのようにも感じています。今の推しはトム・ブラウンですかね。息子も笑って観ていましたが、教育には悪そう。
笑いは緊張と緩和によって起こる、なんて言葉もありますし、作家のカート・ヴォネガットも、最高のユーモアの根底にはいつも深い悲しみや恐怖がある、というようなことを書いています。


ところで、藤岡拓太郎さんというギャグ漫画家をご存じでしょうか。私は大ファンで、本が出るたびに買ってきたのですが、2019年に出た初めての絵本『たぷの里』がすごいんです。


笑いはふつう、みんなが共有している常識から外れたところで起こります。ただ日本のお笑いはとても高度に進化していて、気配やズレ、不条理をあえてスルーするような笑いまであります。藤岡さんのギャグ漫画もそうした日本のお笑いが下地にあるので、楽しむには少しだけ共通認識が必要でした。
『たぷの里』は違います。ふつうの日常に、いきなり巨漢の力士が現れて、お腹の肉をたぷっと乗せてくる。それだけ。背景の知識がほとんどいらないので、小さな子どもにも、海外の方にも、響く人にはまっすぐ届きます。本当にシンプルな笑いですが、こうしていろんな人と笑いを分け合えるのが、この絵本の強さだと思います。


作品集の『夏がとまらない』や『大丈夫マン』には、笑いの遠くのほうに、かすかに悲しみが香るところがあって、私はそこに強く共感してしまいました。泣き笑い、というか。
それが『たぷの里』では、笑い泣きに変わったような気がしています。笑いすぎて、なんだか泣けてくる。


実はこの本、もともとは売り物ではありませんでした。お客さんに連れられてきた子どもたちが退屈そうだったので、自分の私物の『たぷの里』を店に置いていたのですが、「これください」と言われることがあまりに多くて。売り物じゃないんだよと伝えると、泣いてしまった子も何人かいました。
書籍の取り扱いについては全く知識がなかったのですが、それを機に書棚を設置。少しずつ本が増えて、今では本だけを買いに来てくださる方もいます。うちの書棚ができたのは、たぷの里のおかげです。藤岡さん、ありがとうございます。そして「これください」と言ってくれた子どもたちにも。
(文・井上)

『たぷの里』 / 藤岡拓太郎 | en-shouten ONLINE
『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』 / 藤岡拓太郎 | en-shouten ONLINE
『大丈夫マン 藤岡拓太郎作品集 』 / 藤岡拓太郎 | en-shouten ONLINE

 

←「en-shouten」の記事はこちらから

←このほかの「今日のひとしな」はこちらから

en-shouten

長野県木曽郡木曽町福島8101
TEL : 0264-24-0875
営業日/時間:Instagramを確認
https://en-shouten.com
Instagram : @en_shouten

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『暮らしのおへそ』『大人になったら、着たい服』などのムックや書籍を制作する編集部が運営しています。

ページトップ