暮らしの象徴
〜「en-shouten」より〜 vol.17
10年ほど前、東京で飲み屋をやっていた頃のことです。8坪ほどの場末のカラオケスナックをセルフリノベしてつくった店で、簡単なつまみや食事と一緒に、お酒やコーヒーを出していました。並行して昼はセレクトショップに勤めるという、ヘンテコな生活をしていたのですが、そんなときに出会ったのが、手仕事や古物が並ぶマーケットイベントでの箒のブースです。
正直、箒に特別な感情は持っていなかったのですが、そのブースを見たときに、心から可愛いな、と思ったのが第一印象です。まるで魔法道具のように吊り下げられた木の柄の箒と、什器に並べられた素朴ながら色鮮やかな手箒の編み糸。すっかり心を奪われて、そこで行われていた小箒づくりのワークショップに参加しながら、吉田慎司さんにいろいろとお話を伺ったのでした。

ぜひとお願いして当時の飲み屋で開催した企画展は、とても素晴らしいものでした。画家の佐々木淳さん、当時短歌を詠んでいたご友人、そして箒の吉田さんによる三人展。御三方それぞれの作品も素晴らしかったのですが、飲み屋という場所で、暮らしの象徴のような箒、アートの象徴のような絵画、文芸の象徴のような短歌が並ぶ組み合わせに、非常に刺激を受けました。というより、少し喰らいすぎてしまい、のちの長野移住の決定打になったようにも感じます。

昔話が長くなりすぎました。吉田さんがつくっているのは、神奈川県愛川町中津で150年ほど前から伝わる中津箒。一度は途絶えかけた箒づくりが復活して、今につながっているのだそうです。吉田さんは現在、北海道で制作されています。

まず、美しく、そしてとても使いやすい。使いやすいからこそ美しい、ということも言えるかもしれませんが、民藝誌に寄稿もされる吉田さんの紹介に、付け焼き刃で「用の美」とか言えないのでやめておきます。
工芸や民藝、アートの垣根は正直私には判断しようがありませんが、吉田さんの箒を見て感じるのは、やはり暮らしそのもの。それらを横断した、暮らしという営みの象徴として、この美しい箒をおすすめしたいと思っています。

ホウキモロコシという植物を、手染めした綿糸で編み込んだ箒です。穂先のテクスチャーとちょうど良いしなり具合で、しっかりゴミを拾いつつ、床を傷つけにくい。斜め小箒、洋服箒、筒形箒など、形や大きさの違うものがあるので、使い勝手の良いものをお選びください。
うちでは斜め小箒を食卓のパン屑払いに、洋服箒は手仕事のときに作業机の木屑を強めに払うのに重宝しています。小さな筒形箒は、コーヒーミルの掃除にぴったりです。

中津箒という伝統工芸のことや、武蔵野美術大学の学生だった吉田さんと資料室での箒との出会い、中津箒の復興、暮らしとものづくりについては、吉田慎司著『手仕事というもくろみ 暮らしを編み直す』に詳しく書かれています。表紙絵は、あの三人展の佐々木淳さん。店頭でも扱っているので、ぜひ読んでくださると嬉しいです。
(文・井上)
吉田慎司 / 中津箒 | en-shouten ONLINE
『手仕事というもくろみ 暮らしを編み直す』/ 吉田慎司 | en-shouten ONLINE
長野県木曽郡木曽町福島8101
TEL : 0264-24-0875
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https://en-shouten.com
Instagram : @en_shouten
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