木のエネルギーを生かす、伝える 小沼智靖さんの木と器
~ 「組む東京」 vol.20 ~
小沼智靖さんの木の器は、一つ一つ、生き物のように異なります。素材と対話し、木の特徴を生かすという観点から形や仕上げが決まっていくからです。一つとして同じ素材はなく、木の素材感が徹底的に生かされるため、自ずと個性あふれる作品に。普通は嫌われる節や割れすらも、しばしば造形の一部として生かされています。
今日、ご紹介する小沼さんの木の素地の椀は、形のゆらぎが特徴です。器でも家具でも、木材を使用する場合、一般的にはできるだけ乾燥した木材を使うのが普通です。木はその乾燥度合いによって、動く、つまり形が変わりますから、用途によっては、変形しては困る場合もあるでしょう。ところが、小沼さんは、素材によっては、あえてとれたての、水を含んだ生木(なまき)を使うことがあります。
椀を作る時には、まず木の塊を木工轆轤(もっこうろくろ)にかけ、回転する素材に刃物をあてて、削っていきます。小沼さん曰く、生木を削るのは、例えれば「林檎を削っているようなイメージ」。刃物をあてると水しぶきが出るような木材を使うこともあるのだそうです。轆轤ですから、できあがる形は真円です。それを乾かすと、ぎゅーっと変形し、自然のゆらぎがあらわれる。そのゆらぎがなんともいえず、美しいのです。このゆらぎを出すために、一般的なセオリーとは全く違った方向で轆轤をかけることもあるそうです。
小沼さんの作品からは、木そのものへの深い洞察と愛情が感じられるのですが、その原点はどこにあるのか、伺ってみました。すると、物心ついた頃から、床や柱など、家にある木を触っているのが大好きだったそうです。その頃住んでいた家は、木材と漆喰、土壁でできていて、床や柱を掃除するのが好きだったと。糠を使って床や柱を磨くと、だんだんツヤがでることが、楽しくてたまらなかったのだそうです。
小沼さん曰く、土、石、金属など、自然の素材にはそれぞれ独特のエネルギーがあって、どれも触ると止められないくらい面白い。中でも最も身近だったのが、木だったと。「植物である木は、対話しやすいエネルギーをもっています。水をたくさん含んでいるからかな……。その理由はちょっと言葉では説明しにくいけど、例えば数千度の温度にするとはじめて動き出す金属とは、それぞれ、ちょっと生きてる世界が違う感じ。木のほうが人間に近いのかもしれない」と小沼さんは笑います。
「素材のもつエネルギーを分かりやすい形にして伝える」。小沼さんにとって、それが、ものづくりの核になる大切なテーマなのです。
組むでは、小沼さんの作品を常設しています。明日は、小沼さんの漆塗りの作品をご紹介します。
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