前日の鍋の残りで作る雑炊の朝ごはん

器店主の朝ごはん
2018.11.25

「ろばの家」福江洋子さんvol.4


今週が最終回となる朝ごはんの連載。書き終える前からなんだか寂しい気持ちになってきました。「ろばの家」店主の福江洋子、通称ママろばです。ろばの家のもう一人の店主、夫のパパろばは、この連載で写真を担当しておりました。お店のHPやオンラインショップの画像も全て、パパろばが撮影しています。

これまでの連載は、スープをお店で温めて食べたり、甘いものしか食べていなかったり、遅く起きてきてど~んとパスタを食べたりと、朝ごはんらしくない内容ばかりで、これで終わってしまっていいのかとドキドキしていましたが、ようやく最終回はまともな内容をお届けできそうです。

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じゃじゃ~ん。なんてったって、土鍋で炊いたご飯、で朝ごはんですから! おお~。これぞザ・にっぽんの朝ごはん! 正統派でいきますね~、と思いきや。土鍋ご飯のおむすびに玉子焼き、お味噌汁、おつけものも添えて……とはなりません。土鍋で炊いてはおりますが、それは昨日の出来事。今日は、冷ごはんで作った雑炊で朝ごはんです。お出汁も昨日の夜のお鍋から拝借しております。え? ただの残り物? そんなことはありません。翌朝とびきり美味しい雑炊をいただくために、あえて昨日お鍋にしたのです。手間暇かけてわざわざ取り置いた貴重なお出汁。心していただきましょう。

この日の朝ご飯は、卵を入れないシンプルな雑炊。あとがけで楽しめる卓上調味料「あたらしい日常料理 ふじわら」さんの「おいしい唐辛子」とパクチーを加えて、エスニック風にして食べました。これがもう、かなりクセになるお味なのです。この「おいしい唐辛子」は、にんにくや山椒が入っていて、湯豆腐やおでん、麺類などにちょっと加えるだけで味にメリハリが出て、飽きずに食べられます。

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灰釉土鍋:壷田和宏さん
象嵌飯椀:壷田亜矢さん
黒三島飯碗:嶋田恵一郎さん

玄米で雑炊を作ると粘りが出にくく、さらりと上品な雑炊ができますよ。お出汁を多めにしてクッパのように食べるのもおススメです。ちなみにこの日も土鍋はお店のストーブの上で温めておりました。ああ、身体の芯まであったまる~。舌で感じる温度としては金属の鍋で温めたものとそれほど変わらないと思うのに、どうして土鍋で温めたものは、より身体が温まるような感じがするのでしょうね。鍋焼きうどんなどを食べる時、いつも不思議に思います。

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白磁碗:壷田亜矢さん

それにしても、土鍋で炊いた美味しいご飯の味を知ってしまうと、もう後には戻れませんよね。早い、美味しい、そして何より、香りが良い。どんなに性能の良い炊飯器で圧力をかけても、香りだけは直火炊きにかないません。蓋をあけた瞬間に立ちのぼる、おこげの芳ばしい香り。ピーンと整列して輝く、ツヤツヤのお米たち。日本人に生まれてよかった、と思える瞬間です。

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ちなみに自宅で愛用しているのは、宮崎県・高千穂に工房を構える壷田和宏さんの土鍋。一回目の連載でも、童話の中で魔女がかき混ぜているかのような大きなスープ鍋をストーブにかけているところをご紹介しましたが、それも和宏さんの作品でした。自宅でお米を炊くのに愛用しているのは灰釉土鍋です。和宏さんのお鍋は、白米も玄米もとっても美味しく炊けます。厚手で蓋にも重みがあるので、ご飯だけでなく煮込み料理やスープも上手に作ることができます。お豆料理は特に、金属より土鍋のほうがふっくら煮上がるので、このお鍋なしにはできないメニューが沢山あるのです。

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耐火片手鍋:壷田亜矢さん

どうして壷田さん、ではなく和宏さん、とお名前で呼んでしまうかというと、奥様の亜矢さんも陶芸家で、同じくとても魅力的な耐熱ウエアや白磁のうつわなどを作っていらっしゃるからなのです。

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耐火土鍋:壷田和宏さん

和宏さんの土鍋の特徴は、小さいものから大きなものまで、どの土鍋をとってもひとつのこらずダイナミックだということ。同じ顔立ち、同じ表情の土鍋はふたつとない。そしてどれもこれもぶっ飛んでいて個性的、ただならぬ存在感を放っています。和宏さんの土鍋を生徒として集めたクラスがあったとしたら、担任の先生はかなり大変な思いをしてしまうと思います。「おい、そこの青いの! 居眠りするな」「こら、勝手に蓋を取るんじゃない!」「だから吹きこぼすなって言っただろう」と、授業が全然進まないんじゃないでしょうか。

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ひとつひとつが、独立した個性を持つ人間に見えてきてしまうくらい生き生きとしているということなのですが、多分実物を見ていただければその意味がわかっていただけると思います。実際、土鍋を買われた方に「思わず愛称で呼んでしまう」と言われたことは一度や二度ではありません。ウチでもそれぞれの土鍋にちゃんと名前がついています。

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当店へは展示会などで何度か入荷していますが、その度にすぐ完売してしまいます。良心的としか言いようのない控え目な価格設定もその理由のひとつかもしれません。それでも、ご飯を炊く土鍋のような一生、毎日使う大切な道具ですから、皆さん時間をかけて真剣に選んでいかれます。

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毎回全く見たこともない形のものが届いて「よくこんなに色々な形が思いつくなあ」と、その豊かな発想力に感心してしまいます。蓋や持ち手がかなり突拍子のない形状をしている土鍋もあるのに、全体としてとても雰囲気があり、チャーミングなのです。美人じゃないけど愛嬌のある顔をしている、というようなお鍋もいれば、不細工な感じが逆にいい、という個性派のお鍋もいたり。本当に人間を相手にしているようで、思わず蓋をとって話しかけたくなるほどです。

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「土鍋でご飯を炊くだなんて面倒なこと、考えたこともなかった」という人でも思わず手に取ってしまうほど目を引く佇まいだったり、土鍋で炊いたご飯のほうが美味しいとわかってはいるのだけれど……となかなか踏み出せなかった人が「こんな土鍋なら大切に使えるかも」と決断できたり。たかが道具ではありますが、そのひとの暮らしを大きく変えてしまうほどの力を秘めていることだってあるのです。世の中には美しいものや、精巧によく出来ているものは沢山あって、今、それを手に入れようと思えばいくらでも手段はある。そんな世の中、時代ですよね。だからこそ、自分にとって特別な意味を持つもの、替えのきかない大切な存在、そういう、簡単には手に入らないものを時間をかけてでも見つけたいと思っている人が増えているのではないかと思うのです。

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来月12月15日~1月13日には、「ろばの家」で壷田ご夫妻の個展を予定しています。土鍋や耐熱のうつわはもちろん、普段使いのうつわや台所道具を中心に作ってしていただくことになっています。高千穂の地で、毎日暮らすことそのものを真剣に、体当たりで楽しむ壷田和宏さんと亜矢さん。お二人の人となりも皆さんに伝わればいいのにと思って、個展のタイトルを「ハレもケも」としました。日々、小さなことの積み重ね。毎日がハレの日。多くの人に、つくばの地まで足をお運びいただき、その魅力に直接触れていただけたら嬉しいです。

4回の連載。毎回朝ごはんとは関係あるのかないのか、というような勝手な内容で、自由に長々と書かせていただき、とても楽しい経験をさせていただきました。「ろばの家」のHPでは、さらに好き勝手、どこまでスクロールしても終わらないママろばの長ダベリが名物となっています。よろしければ一度のぞいてみて下さい。ありがとうございました。

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ろばの家

茨城県つくば市天久保2-11-1 コーポりぶる1F
TEL:050-3512-0605
営業時間:9:00~18:00(展示会中は12:00~18:00)
定休日:月・火曜(イベントなどで変更になる場合があるので、インスタグラムなどで確認のうえご来店ください)
http://robanoie.com
オンラインショップ https://68house.stores.jp
Instagram「@robanoie」 

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