時代を超えた古い器に、そっと花を生けるということ

今日のひとしな
2020.05.13

~ 「岡の」より vol.13 ~

 
「花を生ける」――。ただそれだけのことなのだけれど、楽しい。楽しいだけでなく、難しい。それがまた、日々の生活に真剣さを与えてくれているのだと思うのです。

今日は花のこと、そして花を楽しむ古い器についてご紹介します。
 
今年1月の小雨混じりの日に、自分の愛する町、大岡山にてお店を開きました。40代後半からのスタート。特別なものは何も持っていないので、不安と心配はありました。でもいくつかやりたいこともあり、何か役に立てそうなこともあり、それは楽しそうなことでもありました。

その中で一番やってみたかったこと。それは花を生けること。
 

(正月の花。オープン前のお店にひっそりと新年を祝ったお花です)
 
誰かに習ったわけでもなく、仕事にしたこともないのですが、若い頃に読んだ本や影響を受けた人の中に、花人の方がいらっしゃいました。そして、その方について書かれた『日本のたくみ』(新潮文庫)という白洲正子さんの本は20代の私のバイブルのようでした。

美しさを求めることの厳しさ(それは仕事全般に通じるものだと40代の私はようやく理解できるので
すが)や覚悟のようなものが、花の写真と共に一つ一つの言葉を通して、肌に突き刺さるようにヒリヒリときたことを今でもよく覚えています。
 

遠い世界への憧れのような気持ちが、花に対してあったのです。

生半可な気持ちではやってはいけないと思っていましたが、たくさんの失敗をしてきた40代のおばちゃんの今だから、若いあの頃よりも見えているものがあるのではないか。若い頃の理想を求める潔癖さも尊いのですが、中年の図々しさも、日々を楽しくさせるのに必要なことなのでしょう。
 
 
桜が見頃だというのに花見も出来ない状況の今年の春、桜を窓際に飾ってみました。土色の焼酎瓶(越前・笹岡焼き)に、伐採された街路樹の桜をそのまま生けて。この焼酎瓶は江戸末期から明治初期にかけてのもの。いわゆる作家ものではなく、無名の職人の手によるもの。お酒を運ぶための大量生産品なのです。
 
商店街の道ゆく人が窓越しにこの桜を見て、「あらー」と立ち止まっていかれる。ただそれだけのこと。なのだけれど、全く見ず知らずの方とこの春に観る桜への、例年とは違う『思い』を共有ができている気がしたのです。

ネットでお店もできてしま
う時代ですが、残りの時間はこうやってこのお店で日々を過ごしたい。自分の場所を持ち、花を生ける幸せを感じたのでした。美しさを共感し分かち合える花の存在がとてもありがたく思います。
 
 
元々若い頃から古いものが好きで、20代の頃に最も心ときめいたものは、欠けた井戸茶碗でした。李朝時代の白磁や古九谷や古伊万里というものも好きです。
 
 
ですがお花を生けるようになって、新たに集めるようになったのは土器たちです。弥生土器や、須恵器。長い時間土の中に埋まっていた、土色の焼き物。炎がそのまま焼き付いたような肌。お花を生けてみると、しっくりと当たり前の組み合わせであったかのように、自然の姿を見せてくれるのです。
 
江戸時代から明治期の量産品であった様々な色と形の油壺も、形がどれも可愛らしく、骨董市などで探すのも楽しいです。
 
 
これらは、江戸後期から明治初期のものになります。
 
他にも、店内にはこのような花器たちが並んでいます。
 
タイ、16世紀。
 
手のひらに乗るサイズの杯台。明治~大正時代。
 
古い時代の中国やタイのものもあります。ようやく庭に咲いたクリスマスローズをどの器に合うかを想像している時間もとても楽しいのです。
 
生ける時は、「花や枝が居心地がよさそうか、無理がないか」のようなことを考えています。花を見つけることも含めて楽しい。お気に入りの一つの器。当店「岡の」で見つけて頂けたらとても嬉しいです。

朝、お店を開ける時、花たちが待っているような気配がして、それはとても幸せなことです。
 
 
 
 
土器(古墳〜平安)は1万円から2万5千円ほどで販売しております。※掛け花の器のみ非売品です。
油壷(江戸後期~明治)小さいもの4~6千円、大きいもの1万五千円
松郷焼き焼酎瓶(幕末) 1万円
タイ黒い器(16世紀)1万円 ※水が漏れますので、落としが必要です。
※全て税込
 
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okano.shop@icloud.com
欠けや修理跡など状態は様々ですので、お写真等送らせて頂きます。
メールの返信に2日ほどお時間を頂く場合がございます。

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