400年前の唐津を見つめて 矢野直人さんの小皿

今日のひとしな
2020.05.29

~ 「岡の」より vol.29 ~

矢野直人さんは400年前の器を求め、唐津の古典の中心へと進み続ける方です。美しさを知っていながらも、作家「らしさ」を持っている自分の手を制するような。そのような作り手です。
 


唐津焼きには「作り手8分、使い手2分」という言葉があるそうです。素朴で素直な矢野さんの器は使えば使うほど、風合いが出て、愛着を感じます。
 
釉薬の雰囲気が好きで何気なく手に取った、矢野さんの一枚のお皿。使うことで完成する器だということが、じわじわと理解できます。気が付くと食卓の上に常に見かけるようになりました。洗って、休むことなくまた何かをよそって。「こんなお料理をのせるといいよ」と器が教えてくれるような気がするのです。この色の器には、小松菜のお浸しがいいな。この器には塩辛をちょっとのせて。このお皿には竹の子ご飯。これには……と、どんどんイメージが湧いてくるのです。

小さな器にも、この色、この形。
 

(皮鯨と呼ばれる器。赤と灰。土色と釉薬の絶妙なバランス)

うっすらと湧き出るような色。土の色と釉薬の色の相性がとてもよいのです。何気ない顔をしているのに、何か他と違うと感じる気配のようなもの。そのような矢野さんの器が私には謎でした。唐津とはどういう焼き物なのか。どうしても訪ねてみたかったのです。
 
 
矢野さんのご工房とご自宅があるのは、唐津の名護屋湾を見下ろす、自然豊かな場所。伺ったその日は強風と大雨。海鳥が風にあおられるように飛んでいました。豊臣秀吉が大いなる野望を抱いて、朝鮮へと出兵したのはこの名護屋湾。徳川家康や伊達政宗、前田利家など戦国大名オールスターがこの地に集結したのだとか。その湾を窓越しに眺めながら、古き歴史を聞いていると、その頃と大きく変わらない唐津の同じ風景を古の人も眺めていたのだろうと、親しい気持ちが湧いてきました。
 
信楽の古い焼き物や李朝の大壺が展示しているアトリエで矢野さんのお話を伺っていると、純度の高いものに触れるような感覚がありました。
 
 
矢野さんが憧れ続ける400年前の唐津。

今は使われなくなった窯跡から出土された陶片を矢野さんは大事に保管されています。それを手に取る姿は、宝物を手にしたような笑顔。
どんな努力も惜しまない。求めるものに近づく為ならば、なんでも試してみる。湧いて止まない創作の情熱を矢野さんから感じました。
 
自然、風土。唐津に残る濃厚な歴史の薫り。唐津で陶芸を生業とすることは、否応なくこの土地の影響を受けるのです。矢野さんの情熱もこの土地だからこそ培われたもの。矢野さんの器の素直な形。あまりにも目指すものが遠く、高いものなので、作家の癖を出す余地を自分に与えていないのです。
 

現代の作家ものという感じがしない“吹墨”という技法を使った器。高台あたりも、骨董のような雰囲気が出ています。工房を伺った時に見た風景を思い出しま
した
 

 
矢野さんは唐津の砂岩を自ら採って、土と釉薬を自分で作っています。そこには探求してきた狙いがあり、経験と知恵があります。ここまで完璧に準備してきても、登り窯の炎の温度、灰の流れ、窯の中に置く場所などによって、様々な不測の色と形が生まれることも。ですが、それも矢野さんにとっては、そして唐津にとってはごく自然のこと。その炎の仕事、予想を超えた美しさに出会うために、矢野さんは自分の手で出来る限りの全てのことをやっているように思います。
 
器を見れば、矢野さんが作るものに意図のないものは一つもないことがわかります。なぜ、この土色なのか、この高台なのか。この厚みでありこの釉薬であるのか。全てに目指す形があり、強い情熱を持って目指す場所に向かっているのです。手におさまる小さな器から、400年前の作り手の息づかいが伝わってくるようです。

食卓の小さな愉しみ。
ぜひお手にとって頂いたいです。
 
 
 
皮鯨 径約12センチ 高さ約3.5センチ 3,850(税込)
吹墨 径約8.8センチ 高さ2.2センチ  2,750(税込)
 

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