枯れることは必ずしも悪いことではないんです【園芸デザイナー・三上真史さんに教わる「春の庭づくり」vol.1】
草花が芽吹き、樹木の緑が少しずつ深まり、植物があわただしく活動をはじめる春は、ガーデナーにとって1年でいちばんワクワクする季節。園芸店にはさまざま植物が並び、どれを植えようかと選ぶのも楽しい時間ですね。けれど、「可愛いから」とつい見た目だけで選んでしまうことはありませんか? 植物には合う合わないがあるので、庭の環境や手入れ方法に適したものを選びたいところ。そこで、NHK「趣味の園芸」の講師としても活躍している園芸デザイナー・三上真史さんに、たくさんの苗が揃う「ジョイフル本田」にて、庭づくりにおすすめの植物を教えていただきます。1回目は、三上さんの園芸に興味を持ったきっかけや園芸歴、そして植物への思いなどをお聞きしました。
Q.園芸に興味を抱かれたきっかけを教えてください。
僕が生まれ育ったのは自然豊かな新潟のまち。実家には庭があって、園芸好きな両親が小さな頃からお庭づくりを楽しんでいたんです。暮らしの一部にガーデニングがあり、植え替えなども当たり前のように手伝っていましたね。横では飼い犬が庭を走り回っていて、今思い返せば、お庭が遊び場でした。
その後、大学進学で上京したのですが、聞いてはいたけれど東京の自然の少なさに愕然として。自然が恋しいなあと思い、時間ができると自然豊かな場所へ旅に出ていたんです。その中でも忘れられない景色が、埼玉県の秩父で見た芝桜の丘。一面に咲くピンク色の芝桜があまりに美しくて、涙が溢れるくらい感動して。やっぱり植物っていいな、植物がすぐそばにある暮らしがしたいと、自宅に帰ってからすぐにベランダで芝桜を育て始めました。それが趣味で始める園芸のスタートでしたね。
Q.その後NHK「趣味の園芸」のMCに抜擢され、資格なども取得されています。どんな学びがありましたか?
小さな頃から普通に親と一緒に観ていた「趣味の園芸」からお話をいただいたときは、本当にびっくりしました! もともとの“趣味”をそのまま地で出して、番組づくりを楽しんでくださいとスタッフさんにも言われていましたが、毎週、楽しくて仕方なくて。ありがたいことに毎回テーマのスペシャリストの方が来てくださるわけです。あらゆる植物に対する知識が深まり、その知識を裏付けたくてさまざまな植物を自分でも育て始め、ますます園芸沼へとハマっていきましたね。マネージャーからは「ただの園芸オタク」とよく言われています(笑)。
番組を通して知識や経験が深まってくるにつれ、基礎もきちんと知っておきたくなってガーデンコーディネーターやフラワーデザインの資格も取得しました。植物を育てる上でどう美しく見せるかが園芸ならば、飾る時の美しさを極めるのがフラワーデザイン。別物に思われがちですが、学んでみるとどちらにも共通項があって。たとえば、アレンジメントも寄せ植えもお庭も、三角形を意識してポイントを置いていくとデザインがおさまるんです。園芸の趣味を深めたからこそ、そんなことも知ることができました。
Q.植物の魅力とはなんでしょう?
植物ってポテンシャルがすごいんです。たとえば沖縄のガジュマルの木。南国の植物だから通常は室内で育てますが、冬場に少し防寒対策をするなど工夫をしていたら関東の環境に順応するようになり、気がつけば10年以上屋外で元気に育っています。芽吹く時期になっても芽吹かず完全に枯れたと思った植物も、諦めずにお世話をしていると芽吹くことがよくあります。道端に植わっているアジサイだって、冬は枯れ果てるのに春になるとまた美しい緑の葉が出てきますよね。その植物のたくましさに僕はいつも勇気づけられているんです。なにか辛いことがあった時でも、そのうち芽吹くからきっと大丈夫という希望を植物が教えてくれている気がするんです。
コロナ禍でも改めて植物の力を感じました。「花と緑のアンバサダー」を務めさせていただいている横浜市の「里山ガーデン」でガーデンデザインを一部担当しているのですが、外出自粛中でお客さんが来られないから動画を撮ることになったんです。僕自身、本当に久しぶりの外出だったのですが、言葉にならないほど癒されて。植物は情勢などと一切関係なく、美しく力強くたくましくそこに咲いている。言葉では言い表せられない力を持っているんだと改めて感じました。
僕は植物からたくさんの人生の教訓を教わっています。生き様に僕らと同じものを感じるから、育ててあげるというより、 “一緒に育っていく同士”のようなものですね。
Q.これからやりたいことは?
10年間「趣味の園芸」のMCを務めさせていただきましたが、最近は講師として番組に出演させていただくようになりました。これからもテレビ番組、イベント、YouTubeなどを通し、僕らしく誰にでも園芸を楽しめるコツをみなさんにお伝えしていきたいと思っています。
また、積極的に取り組みたいのが子どもたちに植物の魅力を伝えていくこと。アンバサダーを務めさせていただいている横浜でも最近、「花育活動」を始めました。子どもたちと一緒に植物を植えるのですが、それまで植物に興味のなかった子どもたちが目をキラキラさせて「この花はなに?」「芽が出でるよ!」などと夢中になってくれるんです。自然や植物は子どもたちにとって大きな遊び。地球上すべてがテーマパークみたいなものなんです。
そして、この経験が思い出として心の片隅に残って、自分自身もそうでしたが大人になってからも園芸を続けるきっかけになったらうれしいですね。
Q.園芸初心者にメッセージをお願いします。
園芸ってちょっとしたコツを押さえるだけで大丈夫なんです。もったいないのは、一度枯れてしまったからやめてしまうケース。僕だってたくさん枯らした経験がありますよ! そもそも植物はいつか枯れるもの。たとえば一年草なら1年間のうちに花を咲かせて、実をつけて、自分自身は枯れていきます。自分自身が枯れることによって、子孫に繋がる肥料になっているんです。枯れることは必ずしも悪いことではないんですよ。
だからこそ、まずは失敗を恐れないでほしいなと思います。失敗には必ずヒントがあります。日光、水やり、肥料、そのどれかしらに合わなかったものがきっとあるから、そこを変えてみる。そうして改善をしてみて、次にうまく育つと喜びもひとしおなんです。これは園芸をやった者にしか味わえない喜びなので、ぜひ味わってみてほしいですね。
園芸は誰にでも手軽に始められる趣味のひとつです。なんの資格もいらないし、年齢も関係ありません。今のマネージャーも僕の担当になるまでは全く植物に興味がなかったんですよ。でも、僕と一緒に仕事をするにつれ、気がつけば帰りに植物を買っていて(笑)。はじめのうちは「枯れちゃった」などとよく言っていましたが、いろいろとアドバイスをするとそれを試してくれて、すっかりハマってくれました。こんなふうに園芸の楽しさを知ってくれる人が増えるのは、本当にうれしいですね。
庭植えのよさは雨が降れば、水やりが楽なこと。植物さえ選べばかんたんに育つので、育てる喜びをぜひたくさんの人に味わってほしいです! 野菜、果樹、花がきれいなもの、観葉植物など園芸の楽しみ方は無限大。ぜひ自分なりの園芸の楽しみ方をみつけてくださいね。
text:大勝きみこ photo:松村隆史
住所:千葉県印西市牧の原2-1
TEL:0476-47-6811(店舗代表)
TEL:0476-47-6825(ガーデン関連商品・サービス)
営業時間:9:00~20:00(資材館は8:00開店)
※アート・クラフトコーナーやペット用品コーナーほかも併設
HP:https://www.joyfulhonda.com/
Instagram:@joyfulhonda_official
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCtxrR8qldKVCeOiULcc3Cxw
X(Twitter):@hc_joyfulhonda
Profile
三上真史
1983年、新潟県生まれ。2011年から2021年3月までEテレ「趣味の園芸」ナビゲーターを務め、同年4月より講師として「三上真史ニッポン花づくし」を、2023年4月より「三上真史ニッポン実りのわざ」を担当。また、16年からtvk「猫のひたいほどワイド」水曜MCを務める。16年3月「第33回全国都市緑化よこはまフェア広報親善大使」、18年より「横浜の花と緑をPRするアンバサダー」に就任。21年6月よりGreenSnapのオフィシャルアンバサダーに就任。ガーデンコーディネーターや1級FP技能士、簿記等の資格を持ち、園芸や経済に関する講演会・イベントなど多方面で活躍中。Youtube「三上真史の趣味は園芸チャンネル」にて植物の育て方や楽しみ方を配信中。
blog:Mikami garden
Instagram:@engeiouji
X(twitter):@engeiouji
著者本「三上真史の趣味の園芸のはじめかた~育てる&楽しむ50のヒント」が発売中!
植物が元気に育つ栽培のコツを50のヒントにぎゅっとまとめて分かりやすくご紹介しています。
定価:1760円(1600円+税)
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。