「出す」ためのおへそ Vol.1 ―「断捨離®」提唱者・やましたひでこさん
家のなかから不要なものを出す。
体のなかから老廃物を出す。
自分のなかから本音を出す。
私たちに
いちばん必要なものは
「出す」ためのおへそです。
東京の自宅のリビングは、大きなダイニングテーブルが主役。必要なモノだけに厳選されているので、すっきりした空間が心地いい。
よく「着る服がない」と言いますよね。
でも、タンスのなかには服がいっぱいある。
これってどういうことなのでしょう?
心のなかにはない。
でもたんすのなかにはある。
これを正しく言い換えると、
「私が着たい服がない」ということなのです。
「断捨離ってね、捨てることでもないし、片づけることでもないんです」と聞いてびっくり! だったら私たちが今まで耳にしてきた「断捨離」とは何なのでしょう?
本題に入る前に、やましたさんから、こう問いかけられました。
「『出す』という言葉がキーワードです。ゴミを出す、汗や老廃物を出す、感情を出す……。出すことは命の営みで、出せなくなったら命を損ないます。では、私たちがいちばん出したいのに、出せないものって何だと思う?」
う~ん、自分の気持ちでしょうか?
「そう、つまり本音を出すことです。私たちの生活では、『出す』ことにはすべて制限がかかっています。ゴミを出すには曜日や時間が決まっているし、どこででも涙を流したり、怒りを爆発させるわけにはいかない。でも、誰もこの制限のなかにいることに気づかない。断捨離は、まず、この制限から離れ、本当に出したいものを出すことです。出すためには、入ってくるものをいったん止めなくてはいけません。それが断捨離の『断』の意味。断って捨て、出し続けていったら、最後に『離』の状態、『ここに執着していない離れた自由な状態』になります。『断って』『捨てて』を繰り返し、自由になることができる。それが『断捨離』です」
右/東京の自宅の食器棚は和箪笥を利用。なかにはアンティークの器が「間」を生かしてディスプレイされている。好きな器を選び抜き絞り込むことで、どこに何があるか一目瞭然。 左/キッチンには、調味料や乾物などをお揃いの保存瓶に入れて並べている。中身が見渡せるので、必要なものをすぐ手に取ることができ、在庫管理もラク。
義父母との同居で
捨てることさえ阻止された日々
やましたさんが、もともとヨガの行法である、「断行、捨行、離行」という言葉に出合ったのは、ヨガ道場に通いはじめた大学4年生のとき。
「断捨離で何を断ち、捨て、離れるかと言えば、執着心ですよね。でも若かった私はそんなこと無理! と思って封印してしまいました」
その封印が解かれたのが、沖ヨガの創始者、沖正弘導師のお葬式の帰り道でした。
「先輩と話をしていて、『執着なんてなかなか断てないよね』と私が言ったら、先輩の男性が『そうだな~、家のなかだって着ない服でいっぱいだしなあ』って言うんです。そこで、ピピッときたんですよね。『着る服がない』と心では思っているけれど、クロゼットのなかには服がいっぱいある。『ない』のに『ある』。『ある』のに『ない』。これを言い換えると『着たい服がない』ということ。だったら、どうして『着たくない服』がクロゼットにいっぱい詰まっているのでしょう? その原因が執着心なんだと一瞬にして理解できました。心の執着は言葉でごまかせるけど、目に見えるものはバロメーターとしてそこにあり、可視化されている。じゃあ、ここから始めるしかない! と思いました。着たくない服をひとつ取り除いたら、執着心がひとつ消える。そう考えるようになったんです」
やましたさんは、大学卒業後すぐに結婚して石川県に。夫の会社の経理を手伝っていたそう。義父母と同居の日々は、それはつらかったと言います。
「粗雑な食器ひとつ捨てようにも『もったいない』と阻止されます。悪気があるわけではないから、よけいに悩んでしまいました。こんな善人のお姑さんを、なぜ嫌ってしまうんだろう? って。それで病気になったんです」
体調を壊したやましたさんは、実家に戻り、自分を立て直すことに。
「回復して同居していた家に戻ったら、やっぱりお姑さんは親切でうっとうしいのです(笑)。そのとき『うっとうしいものは、煩わしいと認めよう』と思いました。そして、別居することに。物理的距離を取れば、心理的な距離も取れるようになりました」
こうして、捨てる自由を手に入れ、住空間を自分でクリエイトする喜びを味わえるようになったそうです。
当時からヨガ講師として教える仕事をしていたやましたさん。片づけに困っている生徒さんに、少しずつアドバイスを始めました。
「足し算で収納グッズを増やしても解決しないでしょう? 今は引き算のときだよ。私が引き算を教えるね」といった具合です。息子が大学生になったのを機に、夫の会社を辞めて独立。自宅のリビングをサロンにし、自身の経験を基に「断捨離」を教えるように。
『暮らしのおへそ Vol.30』より
photo:有賀 傑 text:一田憲子
Profile
やましたひでこ
一般財団法人「断捨離®」代表。学生時代に出合ったヨガの行法哲学「断行、捨行、離行」に構想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み、誰もが実践可能な自己探訪のメソッドを構築。関連書籍は累計500万部のミリオンセラー。
https://yamashitahideko.com
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