目の前主義のおへそ ― たかはしよしこさん、前田 景さん Vol.1
トマトが終わったら次はきのこ。
見えない未来を追いかけるより
目の前にあるものに向き合うほうがずっと確か。
東京では、それぞれ仕事で忙しく一緒に何かをする時間も少なかったが、北海道に来て、散歩をしたり、畑仕事をしたりと、協力して動くことが多くなった。ケンカもよくするが、思ったことは何でも言い合い、思いを共有。
昨年、東京から北海道・美瑛町に移り住んだデザイナーで写真家の前田景さんと料理家のたかはしよしこさん夫妻。自宅を出て少し歩くと、突然視界が開けます。黄金色、緑色、茶色。なだらかな起伏が続く畑の向こうに山が連なり、その景色ののびやかなこと!
「つい最近まで、きのこの収穫で大忙しだったんです。春先は山菜、それが終わったら梅仕事。ラベンダーは摘みきれなくて、仲間に声をかけて手伝ってもらいました。東京にいた頃は、旬を一生懸命追いかけていたけれど、こちらに来たら季節に追いかけられている感じ。私ね、以前から『目の前主義』なんです。常に目の前のことに必死で、将来の計画をきちんと立てるなんてできないし、過去の反省もすぐ忘れちゃうんですよ」と笑うよしこさん。
実はこの地には、景さんの祖父であり、美瑛の自然を撮り続けたことで知られる写真家、故前田真三氏の写真ギャラリー「拓真館」があります。11年前にここで結婚式を挙げたときから、いつかこの地で暮らしたいと思っていたのだとか。
東京では、よしこさんは料理家として働きながら、不定期で「エジプト塩食堂」をオープン。景さんは広告代理店に勤め、忙しい毎日を送っていました。移住するに当たり、食堂はスタッフにまかせ、景さんはリモートワークに。ひとり娘の季乃ちゃんは、地元の小学校で1年生になったばかりでした。新生活に不安はなかったのですか? と聞いてみると……。
「私は4人兄弟で、姉や兄、歳の離れた弟など、いつも家族に振り回されてきました。だから、どんなことにも順応できる力がついたのかもしれません。実は、いちばん仲が良かった姉が3年前に亡くなりました。闘病中『病気が治ったら、北海道で一緒に暮らそう』と話をしていたんですが……。姉は都会で頑張りすぎて体を壊してしまった。私も本当に大事なことを見失わないように、闘病中の姉と語り合った夢を実現しようと移住を決めました」
きのこを探して森を散策。
『きのこ図鑑』で調べたり、知り合いのきのこ博士に教えてもらって、食べられるものを見極める。
畑に30種類ぐらいの野菜を植えたものの、うまくいかないことも。昨年はミニトマトだけはたくさん収穫できた。
これから周囲の生産者に教えてもらいながら、コツコツと畑を作っていく予定。
photo:有賀 傑 text:一田憲子
『暮らしのおへそ Vol.31』より
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Profile
たかはしよしこ、前田 景
よしこさんは、ケータリングを中心に料理家として活動。2012年に開いたフードアトリエ「S/S/A/W」で、月に数日の「エジプト塩食堂」の営業、予約制のディナー、「エジプト塩」をはじめとする調味料の開発、製造を手がける。景さんは、デザイン事務所、広告代理店勤務を経て、現在は祖父の作った会社でアートディレクター、フォトグラファーとして活動。20年に北海道・美瑛町に移住。娘と3人暮らし。
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