笑顔のおへそ ― 刺繍作家・大塚あや子さん Vol.1
イヤなことは、お風呂で洗い流して
朝起きたら、笑顔で復活。
笑っていれば、何でも乗り越えられる。
美しい白髪は自然のまま。染めたことはないそう。メイクは、客室乗務員時代にレッスンを受けたが、「ボディソープで顔を洗っちゃう人なんです」と笑う大塚さん。今はフランスで買ったフェイス用石けんで。
ごく淡いピンクと若草色だけに色を絞ったリボン刺しゅう。清楚なすみれ色の花にワインカラーのつぼみを組み合わせたスタンプワーク。刺しゅう作家、大塚あや子さんが手がける作品を見ると、あれ? 刺しゅうってこんな世界だったっけ? と、今までのイメージがくるりとひっくり返るよう。「手芸」という枠を超え、1枚のアートとして、見る人をたちまち引き込みます。
色選びやステッチの組み合わせはもちろん、時には「トヨタ自動車」や「ミスタードーナツ」などの企業のポスター用の作品を作ったり、雑誌のタイトルのロゴを刺しゅうしたり。伝統の技を「今」に変換するデザイン力こそ大塚さんらしさ。そのセンスは、いったいどこから生まれたのでしょう?
「世界じゅうの美しいものをたくさん見てきましたから」と大塚さん。
刺しゅう家の母のもとで、幼い頃から刺しゅうを習っていたものの、社会人になって選んだ職業はなんと客室乗務員! 世界の空を飛びまわっていたそうです。
「フライトの間の休みの日には美術館めぐりをしていました。異国の風景、アート、ファッション。そんなすべてを毛穴から吸収していましたね」
結婚を機に仕事を辞め、専業主婦に。結婚当初から夫の両親と同居。ずいぶん苦労も多かったようです。
「嫁ぐ日に、父に言われたんです。『どんなイヤなことがあっても、次の日は必ず笑顔で〝おはようございます〟って言いなさい。笑顔でいれば、すべてがうまくいくから』って。実際にそのとおりでしたね。あのね、イヤなことがあるとお風呂で泣くんです」とあっけらかんと笑います。
そんな新婚生活のなかで思い出したのが刺しゅうでした。子育てをしながら教室に通い、先生の代理を務めるまでに。でも、義父母は外で働くことに反対でした。やっと自身の教室を開いたのは55歳になってからです。
いつ会っても元気で、ワハハと笑ってハッピーに。教室にやってくる生徒たちは、そんな大塚さんに、ただ刺しゅうを習うだけでなく、明るい笑顔のパワーまでをお裾分けしてもらっているよう。
たんたんと繰り返す
ひと針ひと針が美しい景色をつくるように
「今」を信じれば、きっと未来がやってくる。
仕事でずっと刺しゅうをしていても、自宅に帰ると「仕事ではない刺しゅう」がしたくなる。この日は「ずっといい香りだなあと眺めていて刺してみたかった」というジャスミンの花を。今でも老眼鏡なしで作業ができるそう。
手のケアは化粧水で
ハンドクリームをつけるとベタベタして針が滑ってしまうので、化粧水をスプレーボトルに入れておき、こまめにシュッとひと吹き。「ドラッグストアで売っている手頃なものでいいの」
刺しゅうの道具を持ち歩く
仕事がら、小さなはさみやピンクッションを集めている。すき間時間にどこででもすぐに刺せるように、袋に入れて持ち歩く。やや大きめのピンクッションは、カラフルな色で自宅用に手作り。
photo:大森忠明 text:一田憲子
『暮らしのおへそ Vol.31』より
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Profile
大塚あや子
1950年福岡県生まれ。日本刺しゅう、欧風刺しゅうの刺しゅう家である母のもとで刺しゅうに親しむ。客室乗務員を経て結婚。2005年に直接指導による刺しゅう教室「エンブロイダリー・スタジオ・エクル」を開講。個展で作品を発表しながら、テレビ、雑誌、書籍出版など幅広く活躍している。
http://www.studio-ecru.com
『大塚あや子のステッチワーク 24の刺繡物語』(文化出版局)
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。