明日からの「今日のひとしな」は、東京「oku(オク)」からお届けします
あっという間に、2021年も折り返しの7月に。なかなか落ち着かない状況ですが、厳しい暑さになりそうなこの夏も、おうち時間を充実させつつ元気に乗り切っていきたいですね。
7月の「今日のひとしな」を担当して下さるのは、東京・奥沢にある、「oku(オク)」です。おしゃれで賑やかな自由が丘駅から徒歩10分ほどのところにありながらも、最寄りの奥沢駅周辺は、のんびり落ち着いた住宅街。そんな中をさらに一本入ったところに突如と現れる、小さなお店です。
この連載に登場する店主の方、というと、漠然と「昔からお店を持つことを目標に頑張っていたのかな?」「自分とは全然違う人生を歩んできたのかな?」と思う方が多いかもしれません。ですが、「oku」の店主・三木絵理香さんは、もともと普通の会社員。新卒で就職した会社に10年以上も勤めていました。それもIT系! パソコンのソフトウエアの販売促進をされていたのだとか。
「もともと大学は美術系で、油画を専攻していたのですが、続けていくことはなかなか難しくて。現実的な理由からも就職する道を選んだんです」と三木さん。
職場では周りの方にも恵まれて、安定した収入もある。でも……。
「『私の人生、このままでいいのかな?』という迷いはずっとありました。転職しようと資格を取ってみたり、色々習い事をしてみたりも……。そんな時、クラフトフェアの運営スタッフの募集が目に留まりました」
バザーのようなものなのかな? と思いきや、そのクオリティの高さ、そしてそこで働くスタッフや出展者の方の姿に「色んな生き方があるんだ」と感銘を受けたのだそう。また、その場にいることが自分にとってとても自然に感じられたこと、何より楽しかったことで「作ることはできなくても、やっぱり自分はものづくりに関わっていたいんだな」と気づきます。
「子供のころから雑貨屋が好きだったこともあって、『いつかお店をやってみたいなぁ』という漠然とした気持ちはあったんです。ただ、具体的に考えるようになってからも、石橋を叩いて叩いて叩いて……と慎重な性格なのもあって、ようやくお店を持つことができたのは、そこから5年も経ってからなんです」と笑います。
平日は会社勤め、休日はクラフトフェアの運営スタッフをしつつ、開店資金を計算してみたり、実現させるための方法を考えてみたり……。そして、迷いながらも思い切って退職。そこからは、「もう、やるしかない」と。当時縁のあった世田谷周辺で物件を探し、もともと水道屋さんの事務所だったところに居場所を決めました。
「まだ店名も決まっていない、手探りな状態」という中、友人・知人にも手伝ってもらいながら、大工さん達と一緒にお店を作り上げていきます。「節約するために、一か月近く朝から晩まで床を剝がし続けて体調が悪くなったことも(笑)」。とはいえ、だんだん建物の雰囲気が変わり、出来上がっていくお店の姿に胸がいっぱいになりました。そうして2018年11月に誕生したのが、「oku 」です。
「使いやすくて便利なものもいいのですが、私はモノとしての面白さや、美しさ、そして何より暮らしを愉しく豊かにしてくれるもの、持っていてワクワクするものをご紹介したいなと思っているんです」という三木さん。
自分自身の心に響いたもの。それは素材のよさだったり、ディテールの何とも言えない質感だったり……。「好き」「かっこいい」「美しい」「いい」、そういったシンプルな感覚をとても大切にしています。
「絵を描いていたのもあって、商品選びも感覚的ものが多いかもしれません。たとえ用途がないものや使いづらいものも、モノとしておもしろければお取り扱いする、ということも。ですが、そうした‟おもしろい″ものを、お客さまにも気に入ってもらえたら嬉しいです」
また、作品を選ぶときは、必ず手に取って見ること、足を運ぶこと、作家さんにも直接会うことを心掛けています。
「うちもまだまだ無名なので、一緒に頑張っていけそうな作家さんと、これからもお仕事をさせてもらえたら……と思っています」
お店のテーマもがっちり決めるのではなく、並ぶ商品もクラフトや作家ものが多いため、展示会や企画展ごとに店内の雰囲気もガラリと変わります。「一点物も多く、いつも置いてあるものが少ないのですが、月に一回とか定期的に覗いてもらえるお店になったら……という想いもあるんです」
展示会や企画展のほかに、ものづくりの楽しさを知ってもらいたいと、ワークショップも随時開催されています。外出自粛期間中にはZoomで開催したことも!
「昨年の緊急事態宣言中は、まだまだお店が軌道に乗っていなかったこともあり、『閉店しなければならなくなってしまうかも……』と不安でいっぱいになりました。ただ、今までずっと慌ただしくしていた分、ゆっくり体を休めることもできましたし、オンラインショップをきちんと作ることもできて、そこに全国から沢山のお客さまが訪れて下さいました。直接お目にかかれないのは残念ですが、温かいメールを下さったり……。お店でお話するだけではない、‟新しいコミュニケーション″の意外なよさにも気付くことができました」
ものごとを決め過ぎず、自分の感覚を信じて。そして、置かれた状況の中で、時には少し考え方を変えてみることで見つかる何かがある……。
そんな三木さんが選んだ、とっておきの「ひとしな」が並ぶ店内。お店を訪れる方もきっと、その都度‟新しい何か″に出会えるはず。これから始まる一か月の連載もぜひお楽しみくださいね。
文/門谷 優
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