日本各地の‟いいもの”を 「伝所鳩」が11月の「今日のひとしな」です!

今日のひとしな
2022.10.31

気付けば日が暮れる時間も早くなり、冬の訪れをひしひしと感じる今日この頃。みなさん、お変わりないでしょうか? 2022年も残りあとわずか。ラストスパートの日々も元気に楽しく過ごしていきたいですね! 

11月の「今日のひとしな」は、大阪・京都・神戸から車で2時間ほどの兵庫県北部・豊岡市の住宅街にひっそりと佇む、日用品と雑貨のお店からお届けします。        


その名は、「伝所鳩(でんしょばと)」。長らく空き家だったところを、大工さんに手伝ってもらいつつ、オーナー夫婦で丸ごと改修したお店です。


あれ、看板をよく見ると、店名は「伝書鳩」ではなくて「伝‟所”鳩」なのですか……?

「みなさんがパッと思い浮かべる、文章をやり取りする『伝書鳩』ではなく、おすすめの商品を伝える‟所“として、『伝所鳩』と名付けました」と話すのは、フォトグラファーとしても活躍している、オーナーの冨樫実和さん。


もともと、フォトグラファーの傍ら、全国各地のおもしろい働き方をしている方々を紹介するウェブメディア『のしごと』を2018年から運営していた冨樫さん。さまざまな地域へ足を運び、職人や農家の方、小さな町工場の経営者やコーヒー屋店主、デザイナー……など、多くの方の仕事と人生を取材・撮影してきました。

そんな中、「特別なものではなく、普段の生活の中で毎日長く使ってもらえるもの。そして、それが作られている土地や仕事の背景までを含めてお伝えできたら」と全国各地のつくり手さんの元を訪ね、自らが気に入ったものを販売するお店として始めたのが「伝所鳩」です。


(開店当初の店内)

ですがそれは、2020年11月下旬のこと。新型コロナウイルスの感染拡大で、遠出はおろか、近所への外出もままならなかったタイミングでした。

「その2年ほど前から東京と夫の地元である豊岡市との二拠点生活を始めていたこともあり、ここ豊岡市でそんな場所を作れたら……とお店づくりを始めていた最中に新型コロナウイルスの感染拡大が始まってしまって。工事が途中でストップしたり、作り手さんのところへも行きにくくなってしまったりと紆余曲折が色々あったのですが、無事に大きな工事も終えられたこのタイミングで思い切って始めてみようと。知り合いもほとんどいなかったので、気の合う人にここでも出会えたらいいなという気持ちもあって」


お店に置くのは、「実際に使ってみて、本当に『いい』と自信をもっておすすめできるもの」。

現地に足を運びたくてもなかなか叶わない厳しい時期ではありましたが、それまでに取材をしていた方々のご縁もあり、無事にオープンさせることができました。その後は、自分たちが普段使っているお気に入りの道具をピックアップして取扱いをさせてもらえないか交渉したり、常にアンテナを張って‟いいもの”を探したり……と、困難な状況の中、ひとつひとつ大切な商品を増やしていきました。


この11月で開店から丸2年。大きなガラス窓から冬の日差しが優しく降り注ぐ店内には、冨樫さんが選びぬいた、幅広い年代の方に長く使ってもらえるような、流行りに左右されない定番品がお店の端から端までズラリと、けれども心地よさそうに並んでいます。


お店を訪れるのは、ふらりと来てくれるご近所のおばあちゃんから、小さなお子さんと手をつないだ親子連れや年配のご夫婦、お友達同士まで、男女問わず様々な年齢層の方達。中には、お子さんやお孫さんに勧められたという方も。「住宅街の中にあるので、ご近所さん以外だと、なかなか通りすがりに入ってみるということがない立地。口コミやSNSを見てわざわざ時間を作って訪ねてくれた方にも、『来てよかった』と思ってもらえるようなお店作りを心掛けています」


そんな冨樫さんの想いは、商品に添えられているポップにも表れています。商品名はもちろんのこと、生産地や作り手・メーカーの情報まで。「どんなところでものづくりしているか、どんな想いが込められているのか。商品のよさはもちろんのこと、作り手さんの想いまでお客様にお届けできたら嬉しいです」と話します。ですが、店内ではあえて積極的なお声がけはしないようにしているのだとか。

「それぞれの‟ひとしな“に熱い想いがあるので、開店当初はお客様に商品の話をたくさんしていたんです。もちろん、そんな会話を通じて喜んで買って下さる方もいましたし、今もそうやって楽しんでいただいている方もいるのですが、『買わないと出にくい』『色々話してくれたから買わなきゃ』と思う方が少しでもいたら、それはよくないな、と。暮らしに本当に必要なものを、納得して買ってもらえるのが一番なので。ただ、今も、話し出すと想いが止まらなくなってしまうことがあるのですが……」と笑います。


(毎月変わる、企画展の様子)


(2022年3月に開催された、ダーニングのワークショップ)

お客様にいつ来ても楽しんでもらえるよう、‟常にお店を動かすこと"も大切にしています。毎日必ず2回はSNSで発信したり、店内で商品を置く場所を月に2~3回は入れ替えたり。定期的にひとつのメーカーを取り上げての企画展も開催していて、いつもとは違った視点から商品の紹介もしています。今年3月からは、やっと念願の「人を呼んで」のワークショップも始めることができました。

「靴下メーカーの商品をズラリと並べた企画展の中で、京都から『ダーニング(衣服にできた穴や布が薄くなった箇所を針と糸で修繕する、ヨーロッパの伝統的な‟お直し”方法)』をされている方に来ていただきました。人と人が触れ合うイベントはやっぱりとてもいいな、と感慨深かったですね」


「『いつも何か見つかる』『ワクワクする』と思ってもらえるように、展示方法をもっと工夫したいし、企画展やワークショップも今後はさらに充実させていきたい」と話す冨樫さん。実は、イベントを開催する時にも、接客する時と同じく、‟あえて″心掛けていることがあると言います。それは、「地元ならではのことはやらない」ということ。


「地元ならではのイベントは、ほかのお店でもたくさん開催されているのでかぶってしまうというのもあるのですが……私が外から来た人間というのが大きな理由かもしれません」と話します。

今は豊岡市で「伝所鳩」を営んでいる冨樫さんですが、実は生まれも育ちもずっと横浜。フォトグラファーとしての活動も以前は主に東京で「地方で生活するイメージを全く持っていなかったんです」と言います。ですが、『のしごと』の活動で少しずつ地方に赴くことが増え、色んな方の生き方に触れていくうちに、自分の‟これから“を真剣に考えるように。その時にまず心に浮かんだのが、「楽しいことをしたい」というシンプルな気持ちだったと言います。

「そんな中、夫の事情もあって始めた二拠点生活を通じて、豊岡市の自然の豊かさや、何かとあくせくしてしまう東京とは違う、この土地ならではの魅力に大きな可能性を感じました。『私のやりたいことは、東京じゃなくてもできるのかも』と。なので、生まれも育ちもここではない私だからこそできること、例えば他の土地で活躍されている人をお招きしたり、今までになかったワークショップを開いてみたり……を豊岡市でやってみたいという気持ちが強くあります。そんな形で、この場所に貢献出来たらなって」


とはいえ、お店はまだまだ試行錯誤の連続。

「『とても寒い地域なので、防寒具を揃えた方がいいな』と思って沢山仕入れたら、車社会で家は気密性に優れていて暖かいのであまり手に取ってもらえなかったり、意外とIHやオール電化にしているお宅が多いので、おすすめの土鍋も使えないお宅が多かったり……。ですが、地元の方も面白がってくれて、こうして受け入れて下さっているので、それが日々とても大きな励みになっています。ものを選ぶ時に、どこを重視するのか、どの部分お金をかけるのかってとても大事と思うのですが、そんなもの選びの選択肢の中に少しでも‟新しい風“として『伝所鳩』の商品を入れてもらえたら、こんなに嬉しいことはないな、といつも思っています」と笑顔で話す姿が印象的でした。


知らない土地の‟ひとしな″を使うこと、食べること。
それはすなわち、その土地を知り、そこでの毎日の暮らしを知るということでもあります。

「伝所鳩」が運んでくれる、日本各地からの‟ひとしな”を自分の日々の暮らしの中に取り入れたとき、きっと、昨日よりも生活が少し彩られ、豊かになっていくのを感じられるのではないでしょうか。少しずつ旅行を楽しめるようになってきたとはいえ、まだまだ気軽な遠出がしづらい今、直接訪れることは難しくても、‟ひとしな”を通じてそれぞれの土地に想いを馳せてみるのもいいですよね。


明日からの連載も、まるで日本各地を旅するかのような気持ちで、それぞれの‟ひとしな″をご覧くださいね。どうぞ、お楽しみに!

文/門谷 優


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伝所鳩(でんしょばと)

住所:兵庫県豊岡市日高町祢布967
営業時間:11:00~17:00
定休日:月曜・火曜・水曜
お問い合わせ:https://denshobato.tokyo/contact
HP:https://denshobato.tokyo/
instagram:@denshobatotoyooka 

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