更年期を「機嫌よ~く」過ごすためには? vol.3
今月の先生:高尾美穂さん(産婦人科医・イーク表参道副院長)
高尾先生に更年期の気持ちの持ちようや注意点を伺ってきました。その上でどうしても心身に辛い症状があるのなら、「もっと気軽に医療の力を借りたほうがいい」とアドバイスをいただきました。
代表的なものがホルモン補充療法(HRT)。更年期の不調の多くは、卵巣がエストロゲンを作れなくなることが原因で起きるので、足りなくなったエストロゲンを物理的に足し、減少をゆるやかにする方法です。ゆらぎのアップダウンをなだらかに、ソフトランディングさせるイメージです。
「今の若い人は『これいいよ』と言われたら、ひょいっと試してみる気軽さがあるんですが、40代50代の方のほうが『食生活や生活改善など、自分の努力で何とかしなくてはいけないのではないか』という謎のハードルを上げている傾向があるように思います。でもそれをする時間や気力が出ないから、苦しんでいるんですよね」
実は更年期症状に関する治療法がしっかり確立してきたのは、ここ20年ほど。この分野の進歩は近年めざましく、薬に関しても、効果は高くなると同時に副作用が劇的に減りつつあるそうです。
「ホルモン治療というと、なぜか理由もなく拒否反応を示す人もいますが、『もともと体で作っていたものが足りなくなったから、足しましょう』という治療法なんですよね。風邪を引いたら風邪薬を飲みますよね? その風邪薬は体で作っている成分なんてひとつもないのに、そちらは気軽に飲むでしょう。医者からすると『何で?』となるわけです(笑)」
高尾先生のもとを訪れ、不調が劇的に変化した患者さんも多数。そういう方々が口を揃えて言うのが「もっと早く試せばよかった」という言葉。不調が長く続くなら、ひとりでふさぎ込まず、もっと気軽に専門家に相談するのがおすすめなのです。
話しているうちに日が落ち(取材にお邪魔したのが、医院の診療時間が終わったあとでした)、表参道の空がピンク色から紫へと変化しています。「話の途中ですが、いいですか?」と、高尾先生はご自分のスマートフォンを取り出して、お疲れであろうのに、子どものように目をキラキラさせながら、変わりゆく空を撮影していました。その様子が何とも可愛らしくて、カメラマンもその姿を追います。
「私はね、年齢はただの数字にすぎないと思っています。年月を重ねていけば、若い頃にはできなかったことができたり、経験や人脈があることで楽しめることが増えたり。例えばコロナ禍も、ただ『大変だ、怖い、しんどかった』と思う人と、『コロナ禍は大変だけど、その中でもいいことがあったよね』と思える人と分かれました。ものごとのいい面をとらえるかどうか、それは考え方のクセみたいなものですからね」
更年期のさまざまな症状も、「体の変化を教えてくれるんだな」「今までのやり方を変えればいいんだ」とポジティブに捉えるか、「ただ辛いもの」「失うことが怖い」とネガティブに捉えるかによって、いろいろと変わってきそうです。
「考え方のクセを変えるのは難しいけど、行動パターンを変えることで、自然と考え方って変わっていくんですよ。だから『今までやったことないことを試してみる』とか、『いつもと違うほうを選択してみる』とか、そういうことをしていったほうがいいと思います。人の悩みのほとんどが人間関係と言われていますけれど、人のことを変えることは難しいし、ほぼ不可能。変えられるのは自分だけ。『面倒な家事はもう止めた!』『今日はもう、10時にはお布団に入る!』と決めたら、そうできるわけですからね(笑)」
高尾先生のお話を伺っていると、更年期を機嫌よく過ごすコツが、何となく分かった気がしてきました。体に起きる変化を正確に知り、それを受け入れること。気持ちの面で辛ければ、思い込みを手放し、自分で自分を縛ることはやめること。そして体が本当に辛いときは、遠慮なくプロの力を借りること。
若い頃はもしかして、夕景や季節の移り変わりをここまでしみじみと染み入るようなことはなかったかもしれません。年を重ねることは、若い頃とはまた違った豊かさを得ていけること。それに気付けるかどうかは、自分次第。高尾先生のステキな笑顔を思い出しながら、その後何度もそのことを反芻した取材でした。もうしばらく続く更年期、リラックスしながら乗り切りますぞー!
photo:砂原文 text:田中のり子
Profile
高尾美穂
医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。婦人科の診察を通じて女性の健康をサポートし、女性のライフステージ、ライフスタイルにあった治療法を提案。またYouTubeやstand.fmなどSNSでの発信にも力を入れ、女性の心身の悩みや人生相談まで、多様な悩みに回答。著書に『人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉』(扶桑社)、『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版社)など多数。https://www.nanpushokudo.com/
田中のり子
衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。著書に『暮らしが変わる仕事』(誠文堂新光社)、『こころとからだを整える』(エクスナレッジ)。編集を行った本に瀬戸佳子さん著『お手軽気血ごはん』(文化出版局)、ワタナベマキさん著『鉄分ごはん』(家の光協会)など多数。「よもやま」の名義でフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動(インスタグラム@yomoyamanoriko)。
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