「誰にでも手の届く質の良い家具」を実現したロングセラーの椅子【天童木工】Pesca

※Come home! webに掲載された記事を転載しています

#22
Pesca
一切の無駄を省いたロングセラー
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天童木工にはロングセラーの製品が多く存在しますが、今回紹介する椅子もそのひとつ。
「誰にでも手の届く質の良い家具を」というデザイナーの想いから生まれた椅子です。

品質と量産の両立

1982年にインテリアデザイナーの松村勝男氏によってデザインされました。
「Pesca（ペスカ）」という愛称が付けられていますが、実はもうひとつ「ローコストチェア」という呼び名がありました。

松村氏は建築家の吉村順三氏の事務所（吉村順三設計事務所）でインテリアデザインを担当していました。のちに渡辺力氏、渡辺優氏らとQデザイナーズというユニットを結成しますが、1958年に独立。独立後も建築家と組み、インテリアや家具のデザインを続けていました。
1960年、ジェトロの意匠改善研究員として渡米する機会が与えられ、訪問先で工場の生産ラインや、市場を見学します。そこで目にしたのは、質の良い家具が大量につくられ、それを誰もが手に入れられるという現状でした。松村氏は、日本もライフスタイルのレベルを上げていかなくてはならない、と量産家具のデザインや開発に力を入れるようになります。
この経験がPesca（ローコストチェア）の開発につながりました。


商品開発は材料や工法の研究から

同一のU字型パーツを左右の脚として配し、貫（ぬき・補強材）を兼ねることで部材を削減。座面は強度確保のため平らにし、上からビスで固定しています。最後にクッションを載せることで、ビスを隠しつつ身体への負担を和らげることが可能となりました。
しなりのある背もたれが優しく身体を受けとめ、非常に座り心地の良い椅子に仕上がっています。

「ローコスト」というと、安いけれど質は期待できないというイメージを持たれがちですが、松村氏が提言するそれは、無駄を省いたうえで品質を保てるよう、材料や構造、生産性などを研究し、無駄なくデザインに反映するということです。
シンプルなデザインと抑えられた価格、そして座り心地も良かったことから、発売後わずか４年で１万脚を販売したという実績を持ちます。

価格的にも手が届きやすく、商業施設から一般家庭まで幅広く使われているPesca。
発売から20年ほど経った時、松村氏はこう語っていました。
「オリジナルデザインは必要だが、やがてそれが定番商品になっていくことが、もっと大事なことと思っています」

1983年のカタログより

完成形だけを考えるのではなく、そこに至るまでのあらゆる過程で最善を考える。
突き詰めたからこそ、現在もなお愛され続ける椅子となったのでしょう。

チェア「Pesca」
https://shop.tendo-mokko.co.jp/shopdetail/000000000046/
材料：ホワイトビーチ（ナチュラル）
サイズ：W400 D500 H752 SH420 (mm)

■松村勝男
1923年 東京都に生まれる。
1941年 ペリアン展「選擇・伝統・創造」を見て多大な影響を受ける。
1947年 吉村順三設計事務所に勤務し、渡辺力・渡辺優とともに立ち上げたQデザイナーズを経て、1958年に松村勝男デザイン室を設立。
建築家の清家清や柳英男、篠原一男らが手掛けた住宅の家具や、脱脂したカラマツを用いた家具シリーズなどをデザイン。
1971年  長大作・水之江忠臣とともに開催した「ファニチュア・コレクション三人展」にて毎日産業デザイン賞受賞。

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