漢方薬でできることって何? Vol.1

からだ修行
2018.02.26

今月の先生:市川 仁さん(市川仁生堂薬局)


西洋医学が日本に入ってくる前から、長い間日本人の健康を支えてきた漢方薬。そもそも西洋医学の薬と漢方薬の違いは何でしょう? 薬と体、薬と健康について、改めてもう一度考える取材ができました。

photo:砂原 文 text:田中のり子


40代も半ばを過ぎ、「更年期まではもう少しだけど、年々月経がつらくなってきているんだよなあ……」。婦人科で診てもらっても、手術するほどの病気はない、さりとて西洋医学の薬は副作用が苦手で、飲みたくない。そう話す私に、友人から「婦人科系に強い、漢方薬局があるよ」という情報が。彼女曰く、そちらで処方された漢方薬を飲み続けたら、ある日お腹にあった“チョコレートのう胞”が、きれいさっぱりなくなったというのです。

その薬局とは、東京・阿佐ヶ谷にある「市川仁生堂薬局」。こちらの薬剤師が市川仁さん、阿佐ヶ谷に漢方薬局を構えて22年という今回の先生です。

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市川先生が漢方に興味を持ったのは、小学生の頃。近所に住む40代の男性が、しゃっくりが止まらないという謎の病気にかかったのがきっかけでした。その男性は、市川先生が生まれ育った長野県から東京の大学病院に何度も足を運び、治療を受けてきましたが、2年かかっても病気が治らなかったそう。

その話を聞いた近所のおばさんが、「しゃっくりには、柿のヘタが効く」と男性に伝えたところ、煎じて飲んだら一日で治ってしまったのだとか。「東京にあるエライ大学病院って、一体何なんだ? そして柿のヘタが効くなんて……?」。このエピソードは、市川少年に大きなショックを与えました。

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「実際に、『柿蒂湯(していとう)』という、柿のヘタのエキスをブレンドした、しゃっくりの特効薬である漢方薬があるんですね。それと、その後読んだ手塚治虫の漫画『ブラックジャック』に登場していた鍼灸師のおじさんが格好よくて(笑)、東洋医学にさらに興味を持つようになったんです」。

少年時代から漢方の専門書を読み始めるというかなりユニークな子どもだった市川先生、大学は薬学部に進学。そこで西洋医学の薬についても勉強し、漢方専門薬局へ就職。西洋医学の理論、漢方の理論、両方を学んだことが、市川先生の大きなバックボーンになっているそうです。

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じつはこの取材の前に、田中は一度こちらを訪れて、婦人科系の漢方を処方していただいておりました。その際、「生理痛はどういう種類の痛みか」「痛みの頻度はどのくらいか」「血圧は低いか高いか」「食生活は」などなど、数十分におよぶ細やかな問診の末、私専用の薬ができあがったのです。

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その薬の内訳を尋ねると……

黄耆(オウギ)、当帰(トウキ)、茯苓(ブクリョウ)、何首烏(カシュウ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、炙甘草(シャカンゾウ)、白朮(ビャクジュツ)、乾姜(カンキョウ)、桂皮(ケイヒ)、附子(ブシ)

といった生薬のラインナップ。冷え症や女性の体にいいとよく耳にする、しょうが(乾姜)やシナモン(桂皮)、棗(なつめ)、朝鮮人参などが入っております。いかにも効きそう! そして私だけのオーダーメイドの薬をブレンドしてもらえたことが、何だかとても心強い気がしたのです。

その薬を飲み始めてみたら、とにかくびっくりしたのが朝の目覚めのよさ。月経痛が軽くなったのはもちろんのこと、前日どんなに疲れて布団に入っても翌朝スッと起きられて、夕方まで元気が続くのです。月経痛という「部分」の不調を治したくて飲み始めた漢方薬でしたが、「体全体の元気」が底上げされた感じでした。

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人間の体はひとつのエネルギー体。どこか不調があるのは、東洋医学で言うところの、体の中の『血』や『気』の流れが滞っているから。漢方もその考えによって処方しますから、エネルギーの流れがよくなって、体全体によい影響があるのは当然のことなのです」

市川先生曰く、西洋医学は症状に対する「対処療法」。薬や治療によって苦痛を和らげている間に、その人の持つ自然治癒力が働くのを待っている……というのが基本姿勢です。漢方薬は逆に、自然治癒力を増進するための体質改善を行う。特に花粉症やぜんそく、生理痛、膠原病といった慢性病、難病などは、遠いように見えても、実は漢方による体質改善のほうが近道の場合もあると言います。


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市川仁生堂薬局

東京都杉並区阿佐谷北2-15-16
TEL:080-3006-4089
営業時間:10:00~20:00
定休日:日曜・祭日
http://www.yokukiku.com/
漢方相談は無料。相談により処方するすべての粉薬・煎じ薬1か月分¥16,200。癌の場合のみ1か月¥32,400。10日分、20日分でも調剤可。

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Profile

市川仁

Jin Ichikawa

長野県生まれ。1996年、東京・阿佐ヶ谷に「市川仁生堂薬局」を開業し、女性特有の病気のほか、花粉症やアトピー性皮膚炎、動食物アレルギーなど、さまざまな病状の人の健康相談を続ける。

田中のり子

Noriko Tanaka

衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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