濃密に、カフェマスターとして生きていく vol.2 「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」 店主・堀内隆志さん
堀内さんといえば、音楽好きでも知られ、ご自身で選曲を手がけたCDを発売したり、フリーパーパーを発行したり。そもそもカフェを始めたのは、自分が好きなものを発信し、いろんな人が集まる「場」を作りたかったから。
「大学生の頃、百貨店でアルバイトをしました。そのときにディスプレイから映画『ベティー・ブルー』のサントラの曲が流れてきて。その場の空気が一瞬にして変わったんです。そのとき、音楽で“空間”を作ることができるんだ!と衝撃を受けました。バイト仲間は美大生が多く、個性的な人ばかり。その中で、好きなものは好きだと言っていいと知ったんです」
卒業後は、宣伝の仕事がしたいと流通関係の会社に就職。けれど、「なんだか違うな」と感じ始めていた頃に当時葉山で「サンライトギャラリー」を主宰していた永井宏さんと出会います。
「心地いい空間に、いろんな人が集まっていました。そこで過ごすうちに僕は絵も描けないし、ものも作れないけれど、みんなが集まってくる“場”ならつくれるかもしれないと思って」。
こうして26歳でカフェをオープン。手探りで店を運営しながら、常連さんとフリーペーパーを作ったり、ブラジル音楽やブラジルの雑貨を取り扱うようになったり。元来凝り性ということもあり、夢中になるものを見つける度に、世界を広げてきました。でも今、堀内さんはその枝葉を少しずつ切り落とそうとしています。大事にしたいと思っているのは、1杯のコーヒーをいれること。
堀内さんの寝室の壁面にはコーヒーミルのコレクションが並ぶ
「忙しい時期には、お店はスタッフに任せ、打ち合わせやセミナーなどに飛び回っていました。でも、同じ豆で同じ技でいれたコーヒーでも、何かが違ってくる。その「なにか」を大切にしたい……。今、お店ではすべて僕がコーヒーをいれます。できることの幅は狭くなったけれど、濃密にカフェのマスターがやっていければいいですね」
長年付き合ってきたコーヒーと、また新たに出会い直す……。一見同じように見えるものごとからも、新しい世界の扉が開くことを、ちょっとくたびれながらも、楽しそうに店へと豆を運ぶ堀内さんの姿が教えてくれました。
『暮らしのおへそ』vol.20 text:一田憲子 photo:興村憲彦
Profile
堀内隆志
神奈川県・鎌倉の「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のマスター。カフェ業のかたわら、ブラジル音楽のCDのプロデユースや選曲、ラジオ番組のパーソナリティ、執筆などジャンルを超えて活躍。奥様の千佳さんとの共通の趣味はプロレス。著書に『コーヒーを楽しむ。』(主婦と生活社)
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。