鍼とお灸で身体を整える vol.3
今月の先生:金子マナさん
お灸と鍼のあとは、うつ伏せになり、背中をコロコロとスティックのようなものでなでてもらいました。こちらは「経絡温灸棒」と呼ばれるもので、中に火を点けた棒灸をセットし、経絡や筋肉の上を転がして使います。
金子さんは熱や筋肉の張りを「ならす」役割で使っていました。ポン! と、お灸により点で温めてもらったのを、全体に流し、ならしてもらうようなイメージです。
最後に「鍉鍼(ていしん)」と呼ばれる金属の棒で、肌の表面をしゃっしゃっとなで上げます。これは「気」を上から下に流す、クールダウン方法で、金子さんの温かい手の中に、たまにヒヤッとする金属の刺激が入り、皮膚がそのたびに、カッと反応している様子が分かります。
「子どもに『挿さない鍼』として施すことがあるんですが、こうやって皮膚の表面に刺激を与えるだけで、鼻かぜが治ってしまうこともあるんです。友人の子どもが鼻風邪をひいたとき、背中をスプーンでさすってもらったら、すぐに治まったことも。子どもは反応が早いんです」
このように、いろんな鍼灸のテクニックを駆使して、私の身体を整えていただきました。冷たいところと熱いところがチグハグだった部分がならされ、身体はすっきり。と同時に下腹部がほっこり温かく、その心地よさが背中側のコリを緩めてくれるような感じになりました。今回、田中は鍼とお灸の両方を使っていただきましたが、人によって、鍼だけ、お灸だけの人もいるそうですし、施す回数もまちまち。その人の身体の反応を細やかにみながら、最善の方法を選んでもらえるとのこと。
金子さんは、鍼灸とは「身体のいろんな働きを、起こしてあげるシステム」と説明してくれました。
「本来そこで働いているべき何か(自己治癒力のシステム)が働いていないから、不調が引き起こされているわけで、それをお灸や鍼で『ちょっとこちらにお願いしま~す』と声掛けして、起こしてあげるような気持ち。そして本人が身体の声に気付いていなかったり、知らなかったりするのも体調を崩す原因になっているので『身体がこうなっていますよ』と、通訳してあげるのが鍼灸師の役割だと思うんです」
単に不調をやわらげるだけでなく、自分の身体への理解を深める場所にしてほしい。というのも、結局は本人が気付けないでいると、同じ不調が何度も何度も起こり、最後はそれが重なって病気になる。健康か不調か、自分で気付くか気付かないかがが大きな分かれ道となるのです。
「田中さんは、急ぎすぎ、詰めすぎ。要は仕事のしすぎで、知らず知らず息がしづらくなっている。ゆるめることを知るのが大切です。ひと呼吸置いてから話して、自分が今どういうペースなのか、客観的に見るのを習慣にするといいと思います。でもその生真面目さは、持って生まれたものだから否定するのではなく、その気質とどう付き合っていくかが大事です」
ドキッ。言われることは、耳に痛いお言葉ばかり。確かに仕事を詰め過ぎて、呼吸が浅くなっているのは何となく分かっています。けれどもそれが、脈や身体の状態としてしっかり現れているのを指摘されると、妙に納得してしまいます。鍼灸でゆるめていただくのはもちろんのこと、身体の状態を客観化することによって、今までのペースをちょっと見直すきっかけにもなりました。金子さんの、どことなくユーモラスな語り口にも安心して、心と身体にも言葉がすっと入っていくようです。
「健康な人の身体って、焼き立てのパンや、蒸したての蒸しパンのような感じだと思うんです。温かくて、手ざわりがよくて、どことなくいい匂いがする。中身が詰まっていて、ずっとさわっていたくなって、何だかおいしそう。不調の人も、鍼灸を施すと、ふかっとやわらかくなってきたり、ほわんといい雰囲気になってきたりします。そうやって元気を取り戻す姿を見ていると、この仕事をやってきて、本当によかった~と感じるんです」
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初診1時間6000円、はりきゅう治療40分5000円、おきゅう教室1時間3000円
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Profile
金子マナ
日本大学芸術学部卒業後、チンドン屋を経て、飲食業界へ。退職後、鍼灸専門学校を経て、鍼灸師に。2016年、渋谷区・富ヶ谷に「ハリトオキュウ」を開院。
田中のり子
衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。